研究課題/領域番号 |
16K12970
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
春日 翔子 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 助教 (70632529)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 眼球運動課題 / Voxel-Based Morphometry / 機能的磁気共鳴画像法 / 運動学習 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究目的は、眼球運動課題の学習前後に磁気共鳴画像法(MRI)により撮像した脳構造画像から検出される灰白質構造変化部位と、運動中に機能的MRIで撮像した脳機能画像から検出された機能的活動部位との相同性を比較することで、短時間の灰白質構造変化が脳の機能的活動を反映する可能性を検証することとした。 健常成人12名がMRI装置内部でゴーグル型視覚刺激提示装置を装着し、呈示される視覚刺激と逆方向に素早く視線を移動させる逆向き眼球運動課題を約60分おこなった。課題前後に取得した脳構造画像を用いて、Voxel-Based Morphometry(VBM)により計算解剖学的に灰白質構造変化を定量した結果、頭頂間溝、補足眼野、大脳基底核、視床、視覚野において有意な構造変化が検出された。次に、運動中に取得した脳機能画像を用いて、局所的な血流応答変化から脳の機能的活動が生じた部位を検討した結果、灰白質構造変化が認められた頭頂間溝、補足眼野、大脳基底核、視覚野において有意な血流応答変化も検出された。一方、灰白質構造変化が認められた部位のうち、視床と補足眼野においては有意な血流応答変化は認められなかった。このような短時間の脳構造変化と脳の機能的活動との空間的不一致は、課題実行時の脳活動のみを検出する機能的MRI と、実験時間全体を通した脳活動を総体として検出する VBM との方法論上の差異や、血管内部の酸素代謝をリアルタイムに計測する機能的MRI と、グリア細胞や血管の構造変化を課題後に計測する VBM との、生理学的な検出対象の差異に起因すると考えられた。 本年度の研究により、眼球運動課題の学習によって生じた脳の機能的活動部位を、学習前後に取得した脳構造画像から評価可能であること、さらに、VBMでは機能的MRI では検出不可能な機能的活動も検出できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、逆向き急速眼球運動課題の実験系構築(視覚刺激呈示パラダイム、MRI撮像パラメータ、トライアル数の決定)を完了し、被験者12名で実験をおこなった。被験者数は当初計画の20名と比較して減少したが、統計的検出力の観点からも妥当な結果が得られたため、12名で必要十分な人数であると判断した。当初の計画に則り、脳構造画像と脳機能画像のそれぞれにおいて信号値変化が検出された部位の相同性について比較検討をおこなった結果、眼球運動に関連する複数の領域において、灰白質構造変化と機能的活動の両方が検出された。この結果は、本研究の目的である「短時間の脳構造変化を用いた脳の機能的活動の評価」の妥当性を裏付けるものであった。さらに、平成28年度の研究において、いくつかの脳部位においては、機能的活動が検出されないにもかかわらず灰白質構造変化が検出されることが明らかとなった。これは、従来法である機能的MRIでは検出できなかった運動学習にともなう脳の機能的変化を、Voxel-Based Morphometryが捉えている可能性を示しており、当初は予期しなかった進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に得られた逆向き急速眼球運動実験の結果が、効果器によらず性質の異なる運動課題に対しても一般的に適用可能であること確かめるため、視覚運動変換課題の一種である左右鏡像反転(Kasuga et al., J Neurophysiol 2015)環境下における到達運動課題の実験系を構築し、健常成人20名を対象に研究を実施する。具体的には、ゴーグル型の視覚刺激呈示装置上で、ジョイスティックにより操作されるカーソルをもちいてターゲットに対する到達運動をおこなう。このとき、手首の運動方向とカーソルの運動方向が左右反転するような変換を加え、被験者は画面上のターゲット方向と逆方向に手首を動かすことでカーソルをターゲットに到達させる訓練をおこなう。このとき、手首到達運動は急速眼球運動とは異なる脳の部位が運動の制御と学習に関与されていることが知られているため、fMRIにおいて平成28年度の急速眼球運動課題による研究とは異なる脳の部位が機能的に活動することが予想される。このとき、VBMにおいても同様に灰白質構造変化部位が変化すれば、運動課題の種類によらずMRI構造画像を脳機能評価に用いることの妥当性が示されるため、これを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費については、当初計画していた1件の国際学会の渡航費を別予算から支出したため残額が生じた。謝金については、実験に協力する被験者数が当初計画より減少したこと、また、仲介業者を介さずに被験者を募集したため当初予定していた手数料が不要になったことから、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、予備検討と合わせて当初計画より14名多い20名の被験者を対象に実験をおこなうことを予定している。また、被験者募集に仲介業者を使用することも計画している。そのため、次年度使用額は謝金に充当する予定である。
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