平成29年度は、Voxel-Based Morphometry(VBM)を用いた短時間の灰白質構造変化による脳の機能的活動の評価が、平成28年度に示された眼球運動のみならず手の運動にも一般的に適用可能であることを検証するため、左右鏡像反転環境下における到達運動課題を用いた実験をおこなった。健常成人22名がゴーグル型の視覚刺激呈示装置を装着し、ジョイスティックにより操作されるカーソルでターゲットに対する到達運動を約60分おこなった。運動学習を誘導するため、手首の運動方向とカーソルの運動方向は左右反転させた。実験の結果、学習前後に取得した脳構造画像から左側の運動野と頭頂葉において有意な灰白質体積の増加が認められた。学習中に取得した脳機能画像からも、同様の領域で有意な血流応答変化が認められた。構造変化が単独で認められたのは帯状皮質、機能変化が単独で認められたのは被殻と補足運動野であった。さらに、VBMにより算出された灰白質体積の変化量と、学習前後におけるターゲットとカーソル到達地点との誤差の減少量が相関する領域を全脳で探索したところ,両側の被殻が検出された。これは、被殻における短時間の灰白質体積増加と運動学習が機能的に関連している可能性を表す。 上記の結果より、到達運動課題においても短時間の灰白質構造変化が脳の機能的活動を反映することが明らかとなり、複数の効果器においてVBMによる機能イメージングの妥当性が示された.さらに、被殻における灰白質体積の変化量と運動パフォーマンスの変化量に相関が認められたことから、短時間の灰白質体積変化を学習の評価指標として利用できる可能性が示された。
|