本研究では,運動指令の不正確性や身体システムの冗長性に起因する初期運動誤差の修正に関わる感覚系と運動系の統合過程を、運動皮質と筋の相動性の指標である「脳波筋電図コヒーレンス」を用いて検討した。 平成30年度は、研究1「断続的筋収縮課題中の初期運動誤差と脳波筋電図コヒーレンスの相関関係」の本実験を一部プロトコルの修正をしたのちに実施した.計測システムの合図とともに0.5秒以内に目標レベルまで力を到達させたのちに力を5秒間維持する「Ballistic-and-Hold課題」を用い,最大努力の10%と15%の2種類の強度の収縮をランダムに繰り返した.健常被験者20名を対象に実験をおこなった結果,10%課題時のほうが力維持期の脳波筋電図コヒーレンスが有意に大きかった.ここで,運動初期の出力誤差に着目すると,15%課題時に比して10%課題時の相対的な運動誤差(誤差/課題強度)が有意に大きいことがわかった.つまり,初期運動誤差が大きく不安定な課題ほど,これを修正するために運動皮質と筋の活動同期性が高まることが示唆された.現在は,運動強度の設定を一部変更したうえで,上記仮説の再検証をおこなっている. また,「研究2:運動誤差修正と脳波筋電図コヒーレンスの因果関係」についても同時並行的に推進した.課題は研究1と同様の断続的な等尺性収縮課題であり,強度は最大努力の15%とした.ランダムに選ばれた試行時に視覚的なフィードバックを一部変調させ,カーソルが突然ジャンプし,発揮張力が高すぎる/低すぎる(±3%)ように見せかける環境を作り出した.10名を対象に実験を行なった結果,発揮張力が高すぎると見せかけた課題時に脳波筋電図コヒーレンスが高まる傾向が10名中7名で認められた.今後は,ターゲットジャンプのバリエーションを増やし,運動誤差修正と脳波筋電図コヒーレンスの因果関係をより詳細に検証していく.
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