本研究は,組体操を「不安定な相手の身体とのかかわり合いの中で姿勢を維持する活動」と捉え,発達学的・体力学的観点から評価し,教材的価値を多面的に捉え直すことで,組体操の多様な行い方と評価観点を新たに提示することを目的とした. これまで,3人組で実施できる比較的簡単な組体操を実施することで,即時的に姿勢制御に関わる感覚統合機能における視覚入力に対する重みづけが低下することを見出している.さらに,組体操の多様な行い方のひとつとして運動遊びプログラム「ぼうけんくみたいそう」を開発し,幼児を対象に,「ぼうけんくみたいそう」の姿勢制御に関わる感覚統合機能に及ぼす影響を調査した.この結果,「ぼうけんくみたいそう」は,幼児の閉眼片足立ち時間を即時的に向上させ,これまでの研究で得た組体操の効果を実証することに成功した. 当該年度は,組体操の姿勢制御にかかわる感覚統合機能に対するトレーニング効果およびコアトレーニングとしての効果を検討ために,健康な大学生24名(男女同数)を対象者とするトレーニング実験を実施した.対象者を,組体操を実施する群(組体操群)とコアトレーニングを実施する群(コア群)に等分した.それぞれの群は,3人一組で1ヶ月間全8回のトレーニングセッションに参加させ,その前後で身体動揺を評価した.結果,組体操群でのみ下肢体性感覚入力に対する重みづけが低下した.これは,組体操の継続的な実施によって,姿勢制御に関わる感覚統合機能における前庭入力に対する重みづけが高まることを示唆する.したがって,3人組で実施する比較的簡単な組体操であっても,ヒトの姿勢制御に関わる感覚統合機能に適応を引き起こし,環境の変化に対する順応性を高めると結論づけられる. このように,本研究は,組体操遊びが子どもたちの感覚統合機能の発達に貢献する可能性を示した.
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