本研究全体の目的は,インドネシアにおいて伝統的に行われている身体活動を伴う遊び(伝統的運動遊び)の心理社会的効用を明らかにすること,および,同国の火山噴火被災地在住小学生の心理社会的健康の維持・増進に資するような,伝統的運動遊びを導入した心理社会的教育プログラムを構築し,試行し,その効果を検証することであった。平成31/令和元年度は,本研究の締めくくりとして,下記の研究活動を行った。 1.研究成果の公表 国際誌Journal of Human Sport and Exerciseに,原著論文が掲載された。この論文の内容は,以下のとおりである。インドネシアの噴火被災地にある小学校において,協力活動を要するゲーム(伝統的運動遊びを含む)を取り入れた体育の授業を,28週にわたって実施し,参加児童のストレス対処スキルおよび問題解決スキルの向上が認められるかを検証した。その結果,対照群(通常の授業を行ったクラス)と比べて,この授業に参加した児童のストレス対処スキル得点および問題解決スキル得点は有意に向上した。このことから,伝統的運動遊びの中で協力活動を行うことが,心理社会的スキルの向上に資すると推察された。 2.今後の展開にかかる討議 インドネシアより,3名の研究協力者を招聘し,これまでの研究成果を総括するとともに,今後の展開・方向性について議論した。そこでは,伝統的運動遊びを取り入れた体育授業の心理社会的効果については,おおよそ,その効果が認められたが,身体的側面への効果や,今後起こりうる災害に対する「準備性」への効果などについての検証が必要であるとの結論に至った。すなわち,「被災児童への対処も必要だが,いつ被災者となるかわからない児童に,災害に対処しうる心身のスキルを事前に身につけさせることも,喫緊の課題である」という認識が共有され,そのための体育授業カリキュラムモデルの構築を目指すこととなった。
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