卓球やテニスなどの球技系スポーツのアスリートにとって、パフォーマンスを左右する重要な視覚情報は、ユニフォームの色(色覚情報)やデザイン(形態視情報)ではなく、ボールや人の動き(運動視情報)である。そのため、運動視の機能評価こそ、当該スポーツ種目におけるアスリートの脳状態評価法として最適であると考え、H29年度までにダイナミックランダムドット刺激を用いた運動方向検出課題を構築し、運動視能(運動コヒーレンス感度)計測法を確立した。H30年度は、同一実験参加者に対して様々な日時で10回の運動視能計測を実施し、運動視のゆらぎを検討したところ、課題パフォーマンスとしての正答率や検出時間には大きな日間・日内変動があることがわかった。本研究で評価された運動視能が、ボールなどを見て身体的に反応する視覚運動の出力に寄与しているならば、運動視能の変動と身体運動出力の変動は対応しているはずである。この点を調べるために、ガボール刺激を用いた視覚運動課題を確立し、運動方向検出課題の成績との関係を検討した。運動方向検出課題と視覚運動課題の成績はよく対応しており、運動方向検出課題が高い時は視覚運動課題の成績も高いことがわかった。これは、本研究で確立した運動方向検出課題に基づく運動視能計測法は、運動視能のゆらぎを検出できるだけでなく、実際の球技系アスリートのスポーツパフォーマンスを推測できる可能性を示唆する。運動視能に影響する要因を検討するために、運動方向検出課題時の視線行動パタンや皮膚電気反応(GSR)を計測したが、運動視能の高低と関係する特徴的なパタンを見出すことは出来なかった。しかし、運動視能計測前日の睡眠の質との関係を調べたところ、興味深いことに、ある特定の時間帯におけるノンレム睡眠の継続時間が運動視能に関係することが見出され、睡眠の質を向上させることで脳機能を最適化できる可能性が示唆された。
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