研究課題/領域番号 |
16K12999
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研究機関 | 鹿屋体育大学 |
研究代表者 |
中本 浩揮 鹿屋体育大学, スポーツ人文・応用社会科学系, 准教授 (10423732)
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研究分担者 |
森 司朗 鹿屋体育大学, スポーツ人文・応用社会科学系, 教授 (80200369)
幾留 沙智 鹿屋体育大学, スポーツ人文・応用社会科学系, 助教 (20724818)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自動的模倣 / 運動学習 / 観察学習 / モデリング |
研究実績の概要 |
体育・スポーツに見られる巧みな動作は,そのすべてを言語化して説明することができないという特徴がある.そのため,伝統的に体育・スポーツの指導者は,学習者に見本動作を観察させ「模倣させる学習」が有効な手段であると考えてきた.しかし,この学習では指導者の示範を一目見るだけで動作を習得できる者と,複数回見ないと習得できない者といった個人差が見られる.つまり,動作模倣能力には個人差があり,その高低が運動学習の速度を決定し,スポーツパフォーマンスに影響すると考えられる. しかし,これまで動作模倣能力の個人差を定量化した研究は見当たらず,定量化された模倣能力と競技力・運動学習速度との関係を直接検討したものはない.よって本事業では,「スポーツ版の動作模倣能力診断テストを開発」し,「動作模倣能力と競技レベル(横断研究)・運動学習速度(縦断研究)の関係」を明らかにする. 本年度は,模倣の神経基盤として注目されているミラーニューロンの機能に着目し,「自動的模倣の定量化」を目的とした.模倣能力を評価する課題として,近年の模倣に関する研究で使用されている単純な指上げ反応課題を使用した.この課題は,画面に呈示される文字刺激に対応して,人差指または中指を素早くボタンから離す課題である.文字刺激の背景には,モデルが人差指あるいは中指を上げた写真が同時に呈示される.課題は常に文字刺激への反応を要求するため,モデルの写真は無視してよいにも関わらず,反応はモデルの指あげ動作の影響を受ける.この影響量を自動模倣のし易さと定義し,体育大学に所属する競技者200名に行った結果,影響量は正規分布を示した.さらに,分布の上位20%と下位20%の者に単純な短期間の観察学習を行わせたところ,前者は正しいモデルの観察時には後者よりも学習に優れていた.つまり,指上げ課題は自動模倣能力の定量化に有効であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,研究初年度であったため,模倣能力の診断テストとして妥当な課題を見つけることが最優先であった.実験研究で使用されている課題 (意図的に対象者を模倣する課題,自動的な模倣を扱う課題) を精査し,いずれの課題でも検討を行ったが,自動模倣がテストとして簡便であり,また申請者が目的としている標準化,運動学習との関連も強いことが明らかとなった.一方で,本年度扱った非常に単純な課題が,複雑なスポーツの学習に有効であるかは検討の余地が残されたため,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
申請段階や研究初期では,複雑な動作を模倣するテストを想定してきたが,本年度の研究成果から非常に単純な反応時間課題で模倣能力を評価できる可能性を得た.この利点は,テストを簡便に短時間で行えること,反応時間が指標となるため個人差が想定していたよりも細かく評価できるといった点にある.また,意識的な模倣を対象とした場合,そこには複雑な心理メカニズムが関与するが,自動的な模倣は比較的単純な理論で説明できる可能性がある.そこで,今後の研究の推進方策として,自動的な動作模倣に完全にシフトする.その上で,自動模倣テストの対象者属性の拡大とサンプル数の増加,自動模倣と複雑な運動課題や実際の競技成績との関係を明らかにしていく.また,自動的動作模倣の神経基盤を背景にして,神経科学的手法を導入し,テストの妥当性を高める取り組みを行う.具体的には,モデルを観察(知覚)することによって運動システムが自動的に活性されるという知見に基づき,反応時間課題の個人差が,モデル観察中の皮質脊髄路興奮性にも同様に認められるかについて経頭蓋磁気刺激を用いて検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請段階や研究初期では,複雑な動作を模倣するテストを想定してきたが,本年度の研究成果から非常に単純な反応時間課題で模倣能力を評価できる可能性を得た.研究申請段階では,ゴニオメーターを組み合わせた特殊な装置の開発を予定していたが,研究の進展に伴い動作解析システムを導入した方が研究全体の推進に有益であると判断し購入装置を変更した.これにより10万円の差額が出た.また,実験補助の雇用時間が本年度は予想より少なかったことにより,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
来年度からは,現在有益な知見が得られている自動的な動作模倣に完全にシフトする.前述の通り,この研究において対象者属性の拡大とサンプル数の増加,複雑な運動学習課題や実際の競技成績との関係を明らかにしていく.また,自動的動作模倣の神経基盤を背景にして,神経科学的手法を導入し,テストの妥当性を高める取り組みを行う.後者に関しては,当初の研究計画を更に拡大させる取り組みである.その際,筋電図用電極等の消耗品が必要となるため,本年度の差額を充当する予定である.
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