研究課題/領域番号 |
16K13005
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
船渡 和男 日本体育大学, 体育学部, 教授 (60181442)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 足底圧分布 / 床反力 / 歩行 / 走行 / スポーツバイオメカニクス |
研究実績の概要 |
人間の歩・走行動作において、足底部は体重を支えると同時に、身体運動で発生する足底全面での圧力発揮およびその反作用として地面からの反力を受けている。特に歩行に関する研究では、足底圧の分布から、病理的診断や、高齢者の転倒予防など多くの有用な情報が発信されており、足部に関する運動学的分析は、医療やリハビリ研究(Clinical Gait Analysis)分野においてニーズが高まってきている(Turner D.E. ら 2008, Scott G. ら, 2007)。これまで足底部の圧力分布は定性的診断に依存していることが多かったが、近年になって足底圧分布の定量化が試みられるようになった。D.E. Lieberman(Nature,2010)は、衝撃を緩衝させる靴の機能は本来の人間が有する足底の固有受容感覚、足底筋あるいはアーチなどの機能を退化させていることを示唆している。またNurseとNigg(2001)は、足底の固有受容感覚を人為的に変えることによって、歩行中の足底圧パターン、筋活動変化などの歩行(パターン)を変えることができる可能性を示唆している。 本研究では人間の歩・走行中の足底圧、床反力および身体重心の動きの変動性を測定することにより、繰り返し運動の周期性を乱す要因にについての検討が可能ではないかと考えた。 平成28年度においては、足底圧・荷重分布を経時的に定量化し、歩行・走行評価のための足底圧・荷重分布パターンを検討するために、研究手法の確立を中心とした基礎的研究を実施した。具体的には、足底圧・荷重分布パターンを定量化するために、足底を解剖学計測点から区分し、三次元モーションキャプチャーシステム、床反力計、足底圧計を同期した統合システムを構築して、同システムから得られるデータの妥当性及び正確性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歩・走動作の変動性に関してはストライドの長さや頻度の変動あるいは床反力のピーク値などの変動で評価されてきた。本研究ではこれに加えて、圧力中心の位置を決定する足底部の圧力分布の変動性についても検討した。また本研究では、足底部を分割して各部位ごとの足底圧を時系列に沿って定量化すると同時に、床反力計測器埋設の歩行路上での歩・走行時の3成分の床反力とモーションキャプチャーシステムによるキネマティックス変量の変動が大きるなることを不安定ととらえ、その出現時相と要因について明らかにした。 方法論の確立のために用いた手法として、三次元モーションキャプチャーシステム、床反力計、足底圧計を同期した計測システムを構築した。さらに3つの計測機から得られるデータを統合する分析システム(分析ソフトウエア)を構成し、足底荷重の精度と再現性を確認したうえで、1ステップ中の荷重パターンと変動を抽出した。 足底を解剖学計測点から区分を行い、その妥当性および正確性の検討するために、三次元モーションキャプチャーシステム(VICON MX20,Oxford Metrics Ltd)、フォースプレート(Kistler ,600×900 Switzerland)、足底圧計(Rs scan international , Belgium)をトリガーシステムを用いて同期した。統合システムの精度を検証するために、VICONのマーカー座標位置、フォースプレート足圧中心(COP)位置座標、足圧計のCOP位置座標、3測定機器間の測定誤差を検討した。 足部の解剖学的計測点はM.C.Carson et al.,(2001)、足底区分方法はJ.Stebbinset et al.,(2006)を参考に、足底部位を5部位に区分した。足底区分方法は、モーションキャプチャーシステムから得られたマーカー座標位置を足底圧計の座標に投射した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、足底圧・床反力の変化と動作を同時に分析するシステムを構築することで、足底圧分布の時間的な変化と動作の変動の因果関係を検討することができる。特にこの手法は、幼児や加齢あるいは臨床的観点から、歩・走行動作の不安定性について診断および評価に活用することが可能であると考えている。さらに歩行の安定性の改善のためには、足圧分布の変容を意識する介入研究にも発展できると考えている。このような観点から本研究は、バイオメカニクス研究のみならず、医療、リハビリ、スポーツ分野へと様々な分野への応用することができると考えられる。「足裏感覚=スキル(技術)」と考えて、足底部位での荷重を選択的に変化させることによって、安定した動作やスポーツパフォーマンスからみて合目的的な動きづくりへと改善することに貢献できると考えている。 したがって今後の研究の推進方策としては、歩行および走行動作を対象として、足底圧・荷重分布パターンを、移動速度変化、発育発達による変化、競技特性による相違あるいは障害の有無による違いなどを比較計測することにより、主として定量化された足底圧分布の変動を基準に、動作の安定性を診断し評価する尺度作成を試みる。 歩・走動作の安定性の評価は、正常および異常歩行動作中の足底圧・荷重分布、床反力及び身体重心を中心とするキネマティックス変量を捉えることによって、不安定な動作を招来する力の原因(kinetic cause)を探る。加齢に伴う不安定歩行の改善に向けて、歩く動作の技術(スキル)分析から足底の感覚を定量化することによって足底圧の有効なフィードバックを行うことによって、安定した動作への改善に貢献することが期待できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
バイオメカニクス研究向けソフトウエアが、見積額より安価で購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年時に行う実験での消耗品(プリンターインクジェット)に充填活用する。
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