これまでの多くの研究によって、筋や腱に蓄積された弾性エネルギーが身体運動パフォーマンスに関与していると提唱されている。しかし、これらの研究の多くは、筋や腱の長さ変化を直接測っているわけではないという問題があり、測定の結果がエネルギー保存の法則から逸脱しているものも散見される。この現状を踏まえ、本研究では、筋もしくは腱の長さ変化をダイレクトに計測した上での力学応答計測を行った。筋を対象とした実験においては、腱組織を含まない単一の筋細胞を用いて計測を行い、収縮中の筋は長さ変化 (伸長) に応じた筋力を発揮するが、その力の一部は失われるという粘弾性を有することが明らかとなった。この特性は、stretch-shortening cycleという反動動作による筋力増強効果に関連しており、stretch (伸張性収縮) によって結合したクロスブリッジやタイチンに弾性エネルギーが蓄積し、この蓄積したエネルギーがその後の短縮性収縮時に利用され、短縮性収縮時の発揮筋力増大に繋がることが本研究によって示唆された。腱を対象とした実験においては、力発揮中の腱の長さ変化を実体顕微鏡下にて計測しようと試みたが、腱の長さ変化が非常に小さく、定量的に計測することは困難であった。この結果は、より測定精度を高めた実験系によって再検証する必要があるものの、力発揮中には腱が10%程度伸長するといった従来の考えは過大評価なのではないかという研究代表者の仮説を支持するものであり、一定の成果は得られたと考えている。
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