本研究課題は、アスリートが高強度かつ持久的な運動を遂行する為に、鍵となる効率的なエネルギー代謝の解明を目的とした。特に2つのエネルギー代謝過程に注目し、その連絡点となるピルビン酸の動向について検討を進めた。高強度運動では、糖の分解代謝(解糖系)を通じてエネルギーを産生し、持久的運動では、解糖系で生じたピルビン酸を中継し、糖の酸化分解を行うことでエネルギーを産生する。この時、ミトコンドリアがピルビン酸を取り込むことで、酸化分解が始まる。 本研究では、高強度間欠的運動(HIIT)と持久的運動(MIET)を比較することで、筋細胞がピルビン酸の産生と利用を高める際に、どのような適応変化が起こっているのかについて検討を行った。2年目には、骨格筋からのミトコンドリアの抽出と精製に取り組み、年度末に定量測定が可能となった。最終年度は、この単離したミトコンドリアに焦点を絞って、膜輸送タンパク質や代謝系酵素の適応変化について測定を行った。 得られた結果から、高強度運動によるミトコンドリアの適応変化は、骨格筋内における総量の増加に現れることがわかった。特に、高発揮出力を担う速筋におけるミトコンドリアの増量は、MIETでは起こらず、HIITのみでみられた。一方、ピルビン酸を取り込む輸送タンパク質や酸化系の酵素などを、単位ミトコンドリアあたりで検討すると、ほとんど変化がみられなかった。このことから、HIITによるピルビン酸の酸化代謝は、ミトコンドリア量の増加に依存すると考えられる。今後は、ミトコンドリアの酵素について、その活性を定量することで、代謝機能としての適応変化を解明したい。
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