研究課題
現代社会においてメタボリックシンドロームは大きな問題であり、その発症基盤として内臓脂肪蓄積によるアディポカイン分泌異常、特にアディポネクチン分泌の低下による血中アディポネクチン濃度の低下が挙げられている。しかし、最近の疫学研究により、高齢者の血中アディポネクチン濃度と骨格筋機能には負の相関関係があると報告されている(アディポネクチン・パラドクス)。速筋線維特異的な萎縮が加齢性の骨格筋の萎縮と機能の低下の病態の特徴であることから、高濃度の血中アディポネクチンは速筋細胞特異的に萎縮を引き起こすことが示唆されるが、これまでこの視点から検討した報告はない。本研究では、アディポネクチンが速筋細胞を特異的に萎縮させるか解明し、骨格筋機能におけるアディポネクチンの生理学的意義を究明することを目的として2年計画で研究を実施する。平成28年度はその1年目として、筋細胞の分化(筋管形成)に及ぼすアディポネクチンの影響を検討した。C2C12細胞から筋管細胞への分化誘導直前に、培地中にアディポネクチン受容体アゴニスト(AdipoRon)を添加したところ、筋管形成がAdipoRon濃度依存性に抑制された。特に高濃度AdipoRonは細胞死を引き起こす傾向が認められた。また、こうしたAdipoRonの筋分化抑制作用がアディポネクチン受容体(AdipoR)を介するものかについて、AdipoR1あるいはAdipoR2をRNA干渉法(siRNA)によりノックダウンし、AdipoRonの影響を評価した。その結果、AdipoRノックダウンによりAdipoRonの筋分化抑制作用は軽減する傾向が認められたことから、AdipoRonの筋分化抑制作用はAdipoRを介したものであると考えられた。また、血中アディポネクチン濃度は加齢により増加する傾向にあるものの、統計学的に有意な変化ではないことをマウスを用いて確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画に含まれていた、筋衛星細胞を単離した検討が行われていないため、一部検討事項の遅れが生じている。しかしその一方で、次年度検討予定の血中アディポネクチン濃度の及ぼす加齢の影響についての検討をすでに終えた。そして、高濃度アディポネクチン(研究ではアディポネクチン受容体アゴニストを使用)は筋細胞の分化を抑制し、かつ細胞死を誘発する作用を持つことが明らかになり、次年度の研究に向けての準備は整っていると考えたため。
研究計画の最終年度である平成29年度は、平成28年度に得られた研究成果を踏まえ、①骨格筋におけるアディポネクチン発現量の加齢性変化、②血中アディポネクチンの増加が骨格筋のサイズと機能に及ぼす影響、③血中アディポネクチン増加に対する骨格筋応答の加齢性変化、について検討し、アディポネクチンによる速筋細胞選択的萎縮機構を解明し、骨格筋機能制御におけるアディポネクチンの新たな機能を追究する。そして、サルコぺニアを効果的に予防あるいは改善する新たな克服策の開発に資する知見を提示したいと考えている。
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