平成30年度は、4月に信州大学医学部医倫理委員会の承認を得て、平成30年8月から平成31年3月にかけて東御市にある身体教育医学研究所にて、転倒経験の有無による歩行特性の相違に関するフィールド調査を実施した。対象は、過去1年以内に転倒経験のある、または、転倒経験のない65歳以上の地域在住高齢者とし、歩行補助具を使用せずに歩行が自立している者とした。また、脳卒中、パーキンソン病、リウマチの診断がある者や、股関節や膝関節の手術後の者は除外した。フィールド調査にあたっては、身体教育医学研究所の介護予防事業参加者に募集を行い、結果として60名の測定を行った。測定は、過去1年間の転倒の有無を確認した後、歩行機能を測定するRehaGait(キッセイコムテック製)を着用して、通常速度での10m歩行を2回実施した。RehaGaitの測定エラーが生じた10名を除外し、50名(平均年齢82.6歳±6.1歳)のデータをもとに、転倒有り群(16名)と転倒無し群(34名)における歩行の時間的・空間的パラメータの違いを統計解析した。結果、転倒あり群は、転倒なし群と比較して、有意に歩行速度が遅く、左右ヒールコンタクト時の床面に対する足底角度が小さいことが分かった。ROC曲線を作成してAUCをもとめると、左ヒールコンタクト時の足底角度は、0.722(カットオフ値15.8度、感度79%、特異度63%)、右ヒールコンタクト時の足底角度は0.691(カットオフ値16.5度、感度68%、特異度69%)、歩行速度は、0.69(カットオフ値0.83m/秒、感度85%、特異度56%)となり、左ヒールコンタクト時の足底角度の精度が最も高かった。以上より、転倒経験の有無によろ歩行の時間的・空間的なパラメータの相違から、転倒リスクのスクリーニングを行うためには、ヒールコンタクト時の足底角度が有用な指標になる可能性が示唆された。
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