研究課題
本研究の目的は,人々に対して,生活習慣病予防に果たすライフスタイルの変容,そしてメンタルヘルスをよい状態に保つ行動変容を促すために,前者では「スモールチェンジ活動」,後者では「こころのABC活動」とそれぞれ名付けた健康ブランドを創生し,これらのブランド活動をブランディングの原則に則って人々へ普及啓発させること,すなわち態度変容および行動変容を行わせることである。本研究では,普及啓発の方略として,従来の医療一辺倒からマーケティングにシフトさせ,「売りやすい(行動を開始させやすい)」健康づくり戦略を創成する。生活習慣病罹患による影響は,いまや国民医療費の約3割,全死亡者数の約6割を占めており,予防に果たすライフスタイルの変容がきわめて重要と認識されている。しかし,人々にとって,仕事など毎日のルーティンワーク以外に時間を割いて健康行動を実践する余裕はない。同様に,気分障害を中心とするメンタルヘルス問題はいまや職域,学校,地域,家庭において多大な損失を与えているにもかかわらず,予防やプロモーションに関する観点は希薄である。これら心身問題の予防的対策としては,従来から医療情報の提供や指示型のポピュレーション・アプローチが行われてきたものの,その効果はきわめて限られていた。平成28年度においては,フォーマティブリサーチおよびブランディングの原則に基づいて,ライフスタイル変容に関しては「スモールチェンジ活動」,そしてメンタルヘルス・プロモーションに関しては「こころのABC活動」と名付けたブランドを立ち上げ,キャンペーン実施の材料となるリーフレットや動画を開発した。平成30年度には,心身2つの健康ブランドの普及啓発を目的に,eラーニングの開発および活用を行い,また自治体職員を対象としたリーフレットによる介入を実施し,効果を確認した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の平成28年度には,(1)指導者および実践者を対象に,実践しやすい健康行動およびポジティブ・メンタルヘルスを強化する行動についてフォーマティフ・リサーチを実施し,(2)リーフレットおよび動画を開発し,同時に(3)健康ブランドに関わる質問票の開発を行った。特に,リーフレットおよび動画の開発に伴うフォーマティフ・リサーチでは,対象となる指導者を,地域:埼玉県ときがわ町保健センター健康づくり担当者・保健師,および職域:全国健康保険協会所属保健師に分け,それぞれの所属から青年,中年,高齢者ごとに複数のフォーカスク・グループ・インタビューを実施し,年齢層に相応しいブランディング要素の内容確認を行った。リーフレットや動画にはブランディングの要素を盛り込み,特に従来から行われてきた標準型健康づくりとの差別化を強調した。2年目の平成29年度では,平成28年度で開発したブランディングの資料(リーフレット,動画)を用いて,全国健康保険協会に加盟する中小企業には新聞形式の「スモールチェンジ活動」の普及を,一方,自治体の職員対象には,「こころのABC活動」についてリーフレットを配布して,その効果を確認した。後者については,加えてeラーニングを試作し,概ね計画通りに進行している。
平成29年度には,職域・地域においてフォーマティブ・リサーチを実施し,その後,職域および自治体職員を対象にブランディング介入を実施し,普及啓発効果を確認できた。平成30年度では,さらに健康ブランドの普及啓発を目的とした資料を充実させることに加えて,実際の介入として,中小企業従業員を対象に,1)月別「スモールチェンジ活動」ニューズレターの開発および配布,および2)教育用パワーポイントおよび動画の開発,を行い,実際にそれらを活用した介入によって効果を検証する。前者は,スモールチェンジ活動の説明,行動変容技法の紹介,業種業態別に差別化した健康情報,および事業所情報を効果的にコーナー配置して届ける,後者においては,「こころのABC活動」の理解を深めさせ,同時にポジティブ・メンタルヘルスを強化する行動計画づくり,そしてセルフモニタリングシートの作成を含む。以上の介入研究を行うことで,研究全体について総合的な評価を行い,報告書を作成する。
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