研究課題/領域番号 |
16K13050
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
石橋 仁 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (50311874)
|
研究分担者 |
緒形 雅則 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (20194425)
川島 麗 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (70392389)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 環境生理学 / 生理学 / 神経科学 / 脳・神経 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病は、高齢になると発病率が増加する疾病で、脳内ドーパミン神経の脱落によって発症する。これまで、運動障害に関しては多くの研究がなされ、ドーパミン不足による大脳基底核神経回路の機能変調が運動障害の原因であることがわかっている。しかし、体重減少など運動機能以外の症状に関してはほとんど研究が進んでいない。申請者は、最近、脳内ドーパミン神経を脱落させたラットが低体重になることを見出した。これまでの予備実験から、このラットは胃腸の運動機能が低下して低体重となっているのではないかと考えている。しかし、脳内ドーパミン神経の脱落が消化管機能に与える影響や、体重減少のメカニズムは全く不明である。そこで、本研究では、脳内ドーパミン神経を脱落させたラットを用い、ドーパミン神経の脱落が胃腸機能に与える影響を明らかにするとともに、体重減少のメカニズムを解明することを目的に研究を遂行している。平成28年度は、まず餌の摂取量と体重の変化との関係に着目して検討を行った。その結果、ドーパミン欠損群では餌の摂取量が低く体重が増加しにくいことが明らかになった。また、空腹時血糖値は、ドーパミン欠損群で顕著な減少がみられたものの、摂食亢進にはつながらなかった。消化器官の重量に関しては、肝臓はコントロール群と優位な変化は見られなかったが、消化管では顕著に高く、消化管の運動機能の低下が示唆された。また、いくつかのホルモンを浸透圧ポンプを用いて長期間投与してみたが、著明な効果は認められなかった。今後は、ホルモンを投与する時期や投与方法、餌の質、飼育環境などについても検討を行いたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生後10齢以上のラットのドーパミン神経を破壊すると死亡するので、妊娠14日目の妊娠ラットを購入し、生後5日以内にドーパミン神経毒である6-OHDAを脳内に投与し、脳内ドーパミン神経を傷害して研究を遂行した。なお、このようにして作成したモデルラットは、成長後にドーパミン神経が脱落しているにもかかわらず、パーキンソン病の様な運動症状は示さない。また、実験に使用したすべての動物は、実験終了後、免疫染色により脳内ドーパミン神経の脱落程度を確認した。 偽処置(sham処置)ラットおよび脳内ドーパミン神経を脱落させたラットを用いて、餌摂取量および体重の変化を観察したところ、ドーパミン欠損群で明らかに摂餌量が少ないことがわかった。また、生後7週目から、アルゼット浸透圧ポンプを用い、甲状腺ホルモンの持続投与を行った。通常、この週齢のラットは1週間に約30グラム程度の体重増加があるが、溶媒投与群および甲状腺ホルモン投与群はともに15グラム程度の体重増加しか起こらず、甲状腺ホルモンでは体重低下を改善することが難しいのではないかと考えられた。 平成28年度末の段階で、脳内ドーパミン神経の脱落による低体重を改善する治療法は発見できていないが、今後本研究で用いている方法によって、それが発見できる可能性を感じており、本研究はおおむね順調に推移していると考えている。平成29年度以降、ホルモンの種類を増加させるとともに、投与を開始する時期、えさの質、飼育環境、腸管の運動機能についても注目していきたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、生後5日目以内にドーパミン神経毒である6-OHDAを脳内に投与して脳内ドーパミン神経を傷害して成長させたラットを用いる。また、初年度に行った浸透圧ポンプを用いたスクリーニングを継続し、脳内ドーパミン神経脱落による体重減少の原因に関するあらゆる可能性について検討を行う。また、初年度は行わなかったが、餌の質についても見直し、高脂肪食などカロリーの高い餌の効果についても検討する予定である。また、飼育環境も考慮して、豊かな環境などについても効果を検討したいと考えている。以上の項目に関して検討を行い、効果が認められた処置に関してそのメカニズムや生理学的意義を明らかにする。そのために、薬物により効果が見られた場合には、拮抗薬等の同時投与による多薬同時投与で体重変化を観察する。また、中枢カテーテルを用いて中枢への直接投与を行う。この際、浸透圧ポンプでは不都合な場合には、高分子ポリマーELVAXを用いた徐放性投与を行う。さらに、腸管自体にその原因が考えられる場合には、マグヌス装置にて摘出した腸管の運動機能を解析する。 本研究のドーパミン神経脱落モデルラットは、胃に食塊があるにもかかわらず、腸に食塊・便が少ない。排便量も少なく飼育の際の床敷きの汚れが少ない。従って、『餌を摂取するものの、中枢または末梢神経系の機能低下が生じて、それらによって胃腸の機能が低下し、最終的に体重減少が起こっているのではないか』と考えている。そこで、平成29年度には、正常の動物とドーパミン欠損動物で、腸管運動の機能についても検討を行いたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
モデル動物を作成するための薬品(6-OHDA)の在庫が国内になくなり、入手が困難な期間があったため、購入を予定した薬品を実際に購入できなくなり、研究費の使用に遅れが出てしまった。また、年度末の3月28日~3月30日に出張を計画していたため、その正確な費用を見積もることができず、やや多めに旅費を残したので次年度使用額が増えた。
|
次年度使用額の使用計画 |
すでに購入する予定の薬品の手配は済んでおり、モデル動物の作成も順調に進んでいることから、6月以降順次研究費を使用する予定である。
|