研究実績の概要 |
ミトコンドリアDNA (mtDNA)は、酸化的リン酸化を担う13種のタンパク質をコードしている。最近、mtDNAにコードされている12S rRNA配列部分から16個のアミノ酸から成る新規ペプチド(MOTS-c)を合成し、それが骨格筋においてインスリン作用を向上させるという知見が報告された(Lee et al, Cell Metab, 2015)。このMOTS-cをコードする塩基配列領域内には、日本人特異的な多型m.1382A>Cが存在し(Fuku et al, Aging Cell, 2015)、男性においてこの多型の有無と身体活動量の組み合わせが2型糖尿病と関連するという知見を得ている。そこで本研究では、この知見をさらに発展させるため、m.1382A>C多型によるMOTS-cのアミノ酸配列の違い(K14Q)がインスリン作用に及ぼす機序を解明することを目的とする。 高脂肪食肥満モデルマウスを実験対象とし、3週間の正常ならびにK14Qを有するMOTS-c投与の後、グルコース負荷テストを行った。雄マウスでは高脂肪食負荷によって体重の増加量に群間差がみられ、MOTS-c 14K投与群はMOTS-c 14Q投与群やプラセボ群よりも体重の増加が有意に少なかった。糖負荷試験においてもMOTS-c 14K投与群はプラセボ群やMOTS-c 14Q投与群よりも耐糖能が良好であった。一方でMOTS-c 14Q投与群はプラセボ群と同様の血糖変動を示した。雌マウスにおいては、雄マウスで観察されたような高脂肪食負荷による体重増加に群間差がみられなかった。MOTS-cの腹腔内投与による血中濃度変化について、雄マウスでは30分以内に有意な濃度増加がみられたが、雌マウスでは血中変動がみられなかった。以上の結果からMOTS-cの作用に性差があると考えられた。
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