研究課題/領域番号 |
16K13054
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
大滝 博和 昭和大学, 医学部, 准教授 (20349062)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Pin1 / 加齢 / 認知機能 / 神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
本邦は,超高齢社会を迎えアルツハイマー病(AD)などの認知症の患者も増加の一途をたどっている。しかしながらADに至る原因の解明はいまだ進んでいない。申請者は細胞死に至らない軽度の脳虚血刺激においても脳内にリポフスチン様自家蛍光物質が増加することを認め,「ストレスなどにより引き起こされる脳循環障害がAD などの起因のひとつではないか」と仮説を立てた。この仮説を明らかにするために短時間脳虚血ストレスもしくは緊張性ストレスをマウスに負荷し①認知学習機能に影響するか?②脳内の難溶性蓄積物質が増加するか?③認知学習機能と難溶性脳内蓄積物質の関連は?の3点を明らかにするために計画された。 これまで,報告者はPin1 KOマウスを用いて空間認知機能を調べ,Pin1 KOマウスの認知機能障害を明らかにした.さらにPin1遺伝子欠損(KO)マウスと野生型において脳の容積をMRIにより経時的に計測し,Pin1 KOマウスが野生型マウスに比べ脳の容積が有意に小さいことを明らかにした。しかし,この変化は加齢により違いを示さず,比較的若年齢からも認められた。さらに申請者の観察により明暗ボックスにPin1 KOマウスを入れた際の行動が野生型と異なることに気が付いた。そこで,ビデオモニターシステムを用いて明暗ボックスにおける行動や他者との社会性に関して検討した。その結果,Pin1 KOマウスの自発運動量は野生型と違いがないが,明暗ボックスにおいて落ち着きがなく1か所にとどまっていることが困難であることを認めた。さらに,侵入者を用いた社会性試験においても異常があることを認めた。このようにPin1 KOマウスは認知機能だけでなく,落ち着き(順化)や社会性においても異常があることを見出した。現在,加齢に伴う脳組織に異常がないか明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者の研究によりPin1 KOは認知機能,社会性,落ち着きなど様々な行動に関わる神経性の異常を認めている。また,MRIの検討より脳の容積が小さいことを見出している。現在,その原因となる脳領域の解析を行っている。Pin1は家族性の認知機能障害において遺伝子変異が認められておらず,孤発性の認知機能障害の原因の解明とつながる可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始当初は,Pin1 KOマウスはアルツハイマー型認知症(AD)様マウスであると位置づけ研究を開始したが,報告者らの解析からADの症状と異なる所見が得られている。さらにそのほかの行動試験による観察からPin1 KOマウスは落ち着きを欠き,社会性に異常がありヒト前頭側頭型認知症(FTD)に類似する病態である可能性を見出した。今後は,FTDに関わる因子や脳領域を調べPin1の脳における役割を詳細に明らかにすることによりFTDの発症との関連性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在,当該研究から結果に基づき,研究論文の作成に取り掛かっている。その英文校正および投稿・出版費用のために,研究期間の延長を行い,予算の一部繰り越しを行った。
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