研究課題/領域番号 |
16K13056
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂本 静男 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 教授 (00266032)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂質代謝能力 / 遺伝子多型 / 最大脂質酸化量 / 最大脂質酸化量時運動強度 / 一塩基多型(SNP) |
研究実績の概要 |
脂質代謝能力とは体内の脂質をエネルギー基質として利用する能力を指す。脂質代謝能力には個人差があり、脂質代謝能力の低下が肥満の成因の1つである可能性が示唆されている。脂質代謝能力の規定要因として性別、身体組成、心肺体力などの「身体特性」や身体活動量、食事内容などの「生活習慣」が示されている。しかし、いずれの要因が脂質代謝能力をどの程度規定しているかについて十分な検討は行われていない。また、脂質代謝能力には「遺伝因子」の関与が示唆されているが、脂質代謝能力を規定する遺伝子は不明である。 そこで本研究では大規模コホートでの横断研究により、「身体特性」「生活習慣」のいずれの要因が脂質代謝能力を最も規定しているか明らかにする。さらに、脂質代謝能力と網羅的に解析した遺伝子多型との関連について検討し、脂質代謝を規定する候補遺伝子を明らかにする。 平成28年度は脂質代謝能力を規定する候補遺伝子を推定するため、健康な男性123名を対象に網羅的に解析した263164個の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)と脂質代謝能力との関連を年齢と体脂肪率を共変量とした線形回帰分析で検討した。脂質代謝能力の指標は運動負荷試験により測定した脂質酸化量が最大となる運動強度(Fatmax)および脂質酸化量の最大値(maximal fat oxidation:MFO)を用いた。 MFOに対して33個、Fatmaxに対して35個のSNPで強い関連が示唆された。興味深いことにMFOとFatmaxどちらにも関連するSNPは認められなかった。そのため、MFOとFatmaxでは異なる遺伝子が関連している可能性が推察される。今後は別の集団およびより大規模なコホートにおいて再現性を検討すると共に、「身体特性」や「生活習慣」の種々の規定要因と脂質代謝能力との関係についても検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では肥満の発症率が高い中高年男女1000名を対象とした大規模コホートでの横断研究を行い、脂質代謝能力を規定する要因について明らかにするのが主な目的である。平成28年度までに698名の測定を終えており、当初の計画通り平成29年内には1000人の測定を完了できそうである。また、これまでに測定した健康な男性123名のデータおよび試料を用いて脂質代謝関連遺伝子の探索を行い、候補遺伝子を推定した。よって、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度も平成28年度に引き続き‘Waseda Alumni’s Sports, Exercise, Daily Activity, Sedentariness and Health Study’(WASEDA’s Health Study)と連携して研究を推進する。WASEDA’s Health Studyは早稲田大学の卒業生およびその配偶者を対象とした大規模コホート研究であり、実験参加者の同意の下、データの測定および試料の採取を実施している。 平成29年8月までに完了予定の800名のデータを用いて、脂質代謝能力と性別、身体組成、心肺体力などの「身体特性」、身体活動量や食事内容などの「生活習慣」のいずれの要因が脂質代謝能力を最も規定しているかを重回帰分析により検討する。脂質代謝能力と「身体特性」「生活習慣」との関連についての結果は9月に愛媛県で開催される「日本体力医学会」にて学会発表を行う。 平成28年8月から平成29年10月までに測定したデータを用いて平成28年度の検討で得られた脂質代謝関連遺伝子の候補遺伝子の再現性を検討する。ここまでの脂質代謝能力に関連する遺伝子多型解析の研究成果は平成29年10月にスイス・フライブールで開催される「RACMEM 2017」にて学会発表を行う。 平成29年12月までに完了予定の1000名のデータを用いて、1年目および2年目に選定した候補遺伝子のSNPについて再度解析を行い、脂質代謝能力を規定する遺伝子を明らかにする。また、「身体特性」「生活習慣」に「遺伝因子」を含めて脂質代謝能力との関連について因子分析を用いて検討し、「身体特性」、「生活習慣」、「遺伝因子」が単独で脂質代謝能力に影響しているのか、それとも共同で影響しているのかについて明らかにする。2年間の研究成果を国内外の学会発表で得られた助言を参考に論文としてまとめ上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
脂質代謝関連遺伝子の推定にあたり解析に用いる試料の選定を実施したところ、代謝に影響を与える疾患や喫煙歴を有する参加者が想定より多く、遺伝子の網羅的解析に用いるサンプルサイズが小さくなってしまった。そのため、候補遺伝子のSNPに関する大規模コホートでの検討を次年度に候補遺伝子の再現性の確認および確度を高めてから実施することとし、SNP解析試薬使用予定分の金額を次年度使用として繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に実施した健康な男性123名を対象とした脂質代謝能力と遺伝子多型解析より、複数のSNPの関連が示唆された。平成29年度に別の集団およびより大規模な集団での再現性を検討し確度を高めたのち、脂質代謝関連遺伝子の候補遺伝子のSNPについて1000人規模の大規模コホートでの検討を実施する。
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