研究課題/領域番号 |
16K13073
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
井上 靖子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (00331679)
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研究分担者 |
森田 喜治 龍谷大学, 文学部, 教授 (90351329)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ボランティア / 児童養護施設 / 心理臨床教育 / 子どもの養育環境 / 地域支援 |
研究実績の概要 |
平成28年度は先行研究の精査やこれまでの兵庫県立大学環境人間学部での学生ボランティア活動の実績をふまえて、全国の児童養護施設600箇所における学生ボランティア活動の実態調査のための質問紙作成や発送作業などを順次進めた。まず、全国の児童養護施設のホ-ムペ-ジを検索し、ボランティア活動の広報実態を把握した。次に、質問紙の内容の検討作業を研究分担者森田喜治、社会福祉法人泉心学園施設長高谷博之、NPO法人3keys代表理事森山誉恵らと共に行った。その後、完成させた質問紙を、兵庫県立大学研究倫理委員会の承認を得てから、全国に発送した。現在、200箇所以上からの返送があり、集計作業を行なっている。研究代表者井上靖子は、当該大学で4年間継続してきたボランティア活動についての学生の体験レポートの質的研究を行ない、それを『児童養護施設におけるボランティア活動の意義と課題』兵庫県立大学環境人間学部紀要第19号27頁-44頁として発表した。そこでは、学生が当初、①「可哀想」「暗い」等の否定的先入観を抱くが、②子どもらの元気さがその不安を払拭し、③学生を鼓舞激励する力を持つこと、さらに子どもとの関わりにおいて、④感情を伴った双方向のコミュニケーションや⑤1人1人の個性を捉えた継続的な関わりを持つことの大切さを学んでいた。一方、⑥子どもの情緒的安定や学力、⑦愛着形成、対人関係に問題があると感じ、⑧施設職員に対して子どもを見てほしいという期待を抱きやすいことを明らかにした。学生らは、血縁重視の子育て観を持ち、施設での暮らしを特殊なことだと捉えた。血縁重視の子育て観を相対化する学びの機会をもつことの必要性があることも指摘した。これらの成果を、今後、ボランティアの活動指針や事前指導、活動の継続のために必要なス-パ-ヴィジョンの内容や方向性、支援体制づくりの検討へと活用していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目標であった①先行研究の精査、②全国の児童養護施設600箇所に学生ボランティア活動の実態把握のための質問紙の発送を終え、回収された200箇所以上の結果の集計作業段階に入っていることが主な理由である。また、研究代表者井上靖子は、『児童養護施設におけるボランティア活動の意義と課題』兵庫県立大学環境人間学部紀要第19号27頁-44頁の執筆の作業の他、ボランティア活動に対する心理臨床教育の在り方を模索する為、児童養護施設における学習支援ボランティアの臨床実践を継続して行なった。さらに、2016年12月1日(木)に学生に社会的養護に対する理解を深めることを目的として、居場所のない子どものシェルタ-の活動に取り組む弁護士の森本志磨子氏を招聘し、『家庭でのしんどさを抱える子どもへの支援を考える』という表題で講演会を実施した。こうした多角的な取り組みを行ない、子どもの養育環境の改善に貢献していく学生ボランティア活動や子どもとの関わりの在り方についての検討を重ねている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、第1に、児童養護施設200箇所以上の学生ボランティア活動の実態把握のための質問紙の結果の集計し、そこからどのような実態があるのかをまとめる。第2に、日本心理臨床学会第3回大会において、自主シンポジウム『臨床の知を生かしたボランティア活動-児童養護施設における取り組みを通して』(於パシフィコ横浜、司会者木村蘭(アメニティホ-ム広畑学園)、話題提供者井上博晶(児童養護施設公徳学園)、辻育子(社会福祉法人聖家族の家)、森山誉恵(NPO法人3keys)、井上靖子(兵庫県立大学環境人間学部)、指定討論者森田喜治(龍谷大学))を実施する予定にしている。そこで、全国の児童養護施設における学生ボランティア活動の実態調査の結果報告、学生ボランティア活動が子どもの養育環境に与える影響や課題、心理臨床家をめざす学生ボランティアの現状や課題、NPO法人の学習支援事業の取り組みなどを発表し、今後、社会的養護において、学生ボランティア活動を活かし、質的向上のためにどのような課題があるのか、心理臨床の知見からどのような貢献ができるのかの討論を行なう。また各地区(沖縄地区、九州地区、関西地区、関東地区、東北地区、北海道地区等)のうち少なくとも4地区から1児童養護施設を選出し、学生ボランティア活動の質的向上のための仕組みや体制づくり、活動指針やスーパーヴィジョンの要点などを明らかにしていくための聴き取り調査を行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
全国の児童養護施設に対する質問紙調査の発送などほぼ予定どおりに研究費を使用してきた。ただし、フィールドワーク調査に関して、大学近辺の児童養護施設における学習支援ボランティア活動に限られ、それ以外の地域の施設訪問を行うことに至らなかったため、交通費が少額で済み、わずかの残金が生じたと考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、各地区(沖縄地区、九州地区、関西地区、関東地区、東北地区、北海道地区等)のうち少なくとも4地区から1児童養護施設を選出し、学生ボランティア活動の質的向上のための仕組みや体制づくり、活動指針やスーパーヴィジョンの要点などを明らかにしていくための聴き取り調査を行なう予定である。
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