研究実績の概要 |
手書き連絡帳の言語的メッセージルールの解明のために,本年度は幼稚園で使用される出席簿の内容について談話分析を行い,日本教育心理学会第58回総会にてポスター発表を行った。結果として①年度末には要求表現を用いる傾向,②教諭からのメッセージはその語尾で「ね」を多用する特徴が年度の後半に出現しやすい傾向がみられた。幼稚園では年度の後半に生活発表会などを実施し,幼児の姿を積極的に連絡帳で保護者と共有することで家庭との関係構築が一段としやすくなると考えられる。また,言語社会心理学のアコモデーション理論によれば,メッセージの送り手は受け手に関心を持ち仲間に入れてもらおうとすれば,心理的収束(psychological convergence)が行われる。出席簿の記述におけるそれの表れ方のひとつとして,教諭が日常的に幼児に対する発話の語尾に頻出語として「ね」をつける傾向(ケアテーカー・トーク)を,家庭との関係構築がある程度できた段階で,保護者に発信する内容で方略として使用し,それによって家庭との関係構築・維持に有利に機能すると考えられる。 なお,保育所連絡帳における家庭との連携機能について80年代より行われてきた先行研究をレビューし分析手法について分類し,日本保育学会第70回大会にてポスター発表を行った。結果として4分類が得られ①意識調査は期待感および不安感や負担感,困難感などの意識や感情を明らかにするために有効な手法といえる。②定量分析は連絡帳における施設差や個人差などを明らかにするのに有効であろう。③記述内容の構成・構造化分析は保育専門家として連絡帳を記入する際には参考となり,保護者との信頼関係の形成と維持に役立てられる。④関係性分析は保育経験年数に関わらず保護者との関係構築を一層図っていくためには有効であろう。今後,保育者の自己分析でも可能とする関係性分析をメインとして研究を進める。
|