これまでの研究によって抽出された子どもの発達を支える保育環境の構造の特徴(アフォーダンス)の有効性を検証するため、実際にそれらの構造の特徴を園環境の中に埋め込み、子どもの行動の変化を観察した。研究対象としたのは、子どもたちの「噛みつき」などのトラブルの多さに悩む2才児クラスである。 最初に、普段の遊び場面を2台のビデオカメラで記録し、その動画のデータに基づいてトラブルが生じる場面の子どもたちの姿や環境の特徴の分析を行った。その結果、2才児クラスで生じるトラブルのほとんどが「モノの取り合い」から始まることがわかった。次に、クラス担任と共にその動画を見ながら、子どもたちにどのような力が育ってほしいと考えているか尋ねた。すると、保育者は「モノや場やイメージを共有しながら共に遊ぶ力」や「長時間集中して遊び込む力」の育ちを期待していることがわかった。 そこで、子どもたちの「共有」を支える環境の構造として、身体よりも大きな場を構成できる①「大型の牛乳パック積木30個」を導入すること、子どもたちの「集中」を支える環境の構造として、②様々な見立てを可能にする4色の「お手玉」、③お手玉を並べられる多種多様な「容器」、④子どもが作ったものを並べられる「カウンター形式のついたて」を導入することを決定し、実際にそれらの構造を保育室の環境の中に埋め込み、子どもたちの遊び方の変化を観察した。その結果、環境構成を変えた保育室では、1)子どもたちのトラブルが減り、2)共に遊ぶ人数が増え、3)役割分担が自発し、4)遊びの持続時間が長くなるなどの効果が観察された。本年度の研究により、これまでの3年間の研究から抽出された環境の構造の諸特徴(アフォーダンス)が子どもたちの自発的な行動を変え、その子どもたちの発達を支える可能性があることが示唆された。
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