生合成酵素を用いた化合物合成は、立体構造形成制御が容易である点、有機溶媒を用いず環境に優しい点など化学合成にはない利点を含み、今後医薬品生産へと大きく寄与する可能性を秘める。しかし、本手法は現在発展途上であり、自由自在に化合物合成ができる状態とは程遠い。そこで、本手法に関する知見を深めることを目的に、医薬品資源として著名なデプシペプチドであるantimycin化合物群の生合成酵素改変による新規類縁体合成に着手した。antimycinは電子伝達系を阻害することで抗菌活性を示すため、医薬品シードとしての可能性を秘める。本化合物群はジラクトンantimycin、トリラクトンJBIR-06、テトララクトンneoantimycinなど環サイズの異なる多様な構造が存在する。本研究では、それぞれの生合成酵素群の比較に基づく機能改変によって、新規antimycin化合物の合成を試みた。それぞれの化合物の生合成遺伝子はBACベクターにて放線菌発現宿主に導入し、必要に応じて改変を行い、モジュール構造を作り変えることで物質生産を行った。即ち、(1) neoantimycinモジュールの欠損によるラクトン環縮小、(2) JBIRモジュールの追加によるラクトン環拡大、また、(3) JBIR-06のATドメインに部位特異的変異導入を行うことで、ラクトン環への多様なアルキル側鎖の導入、に成功した。本研究成果より、改変が困難なモジュール酵素をエンジニアリングし、非天然型化合物合成に繋げるために有益な知見が得られた。現在、研究成果を論文投稿し、原稿修正中である。
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