Fusicoccin A (FC-A)は、植物病原真菌の一種Fusicoccum amygdale Del. から単離・構造決定された5-8-5員環構造を有するジテルペン配糖体である。FC-Aは植物細胞膜上のH+-ATPaseを直接活性化させることが知られており、気孔の非可逆的な開口を誘起する。そのため、FC-Aを植物に対し作用させると、植物の枯死を引き起こす。気孔の開口は植物の光合成の促進など、生長に深く関わる重要因子であり、FC-Aを誘導化しその作用を制御することが可能になれば、植物の生長を促進する分子の創製に繋がる。そのためには、全合成と各種誘導体の生物活性評価による構造活性相関研究という合成化学による生物化学研究へのアプローチが必須である。本研究では新規植物生長制御分子の創製を指向し、天然物Fusicoccin A (FC-A)の全合成と各種誘導体合成および生物活性評価による構造活性相関研究を行う。類縁体を効率的に供給できるアプローチを念頭に置き、FC-Aの中心骨格である5-8-5員環の革新的合成法の開発に着手した。 昨年度はFC-Aの主骨格である5-8-5員環を有する環状化合物を合成標的とし、基本合成戦略「6員環からの8員環への環拡大反応」でその合成経路を確立を行い、7員環を合成することに成功した。 今年度は本合成法を応用しFCに加えて5-7員環を有する天然物の合成を行った。その結果、基本合成戦略に基づく主骨格の迅速合成に成功している。今後はこれら天然物の官能基化をへて、全合成を行う予定である。
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