研究課題/領域番号 |
16K13086
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西村 慎一 京都大学, 薬学研究科, 助教 (30415260)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / 生体膜 / 膜脂質 / 組織的解析 / 再構築 |
研究実績の概要 |
生理活性化合物の一次標的分子を同定することは、生命原理の理解においても創薬においても必須な過程であり、特にタンパク質を対象にした方法論の進展が目覚ましい。しかし生体膜を標的にする場合、タンパク質にはない特殊な膜環境が化合物の標的同定を困難にしている。すなわち、数百から数千の非常に多くの分子種が相互作用することで脂質膜の物性が制御されており、同じ脂質分子種であっても環境によって挙動が異なるため、外来分子による認識の程度が大きく変わる。本研究では酵母遺伝子変異株が示す一見矛盾した薬剤感受性パターンを、リピドミクス解析と疑似生体膜の構築により組織的に解析し、抗生物質が標的にする生体膜環境の解明を目指す。 初年度には分裂酵母のステロールとスフィンゴ脂質の生合成と代謝に関連する遺伝子破壊株を用いて、膜脂質を標的にする化合物に対する薬剤感受性の測定と、それらの変異株が含有する脂質分子の成分分析を行った。薬剤感受性試験には申請者らが標的脂質を明らかにしてきた化合物だけでなく、臨床薬として使われているポリエン系抗真菌剤や、いくつかの天然物を用いた。すると同じ脂質を標的にするとされる化合物であっても、異なる薬剤感受性プロファイルを示すものがあることが明らかになった。一方で、複数の変異株についてLCMSを用いて膜脂質成分の分析を行い、特にステロールについてはNMRも用いて構造を解析し、分子種の特定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には分裂酵母のステロールとスフィンゴ脂質の生合成と代謝に関連する遺伝子破壊株を用いてまず、膜脂質を標的にする化合物に対する薬剤感受性の評価を行った。申請者らが標的脂質を明らかにしてきたセオネラミドやヘロナミド、臨床薬として用いられているポリエン系抗真菌剤、スフィンゴ脂質を標的にするとされる天然物、棘皮動物から精製したサポニンなどを用いて評価したところ、ステロールを標的にする化合物として知られるものであっても、感受性プロファイルが大きく異なる場合があることが明らかになった。複数の変異株についてLCMSおよびNMRを用いて膜脂質成分の分析を行った。さらにいくつかの脂質については細胞から抽出・精製し、化合物による溶血活性を指標にして化合物・脂質間相互作用を検討した。得られた知見は次年度の、脂質膜の再構築と化合物との親和性評価につながると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は平成28年度において複数の脂質生合成・代謝変異株を用いて薬剤感受性を組織的に解析し、一部の変異株については脂質成分の解析を行った。平成29年度には脂質成分の網羅的な解析と、そのデータに基づく、薬剤が標的にする脂質組成の解析を行う。脂質成分の分析は、グリセロリン脂質、セラミドを骨格とするスフィンゴ脂質、ステロールを対象としてLC-MS-MSおよびGC-MS-MSにより行い、ピーク強度から定量解析を行う。薬剤感受性試験と脂質の成分分析の結果を統合的に解析し、薬剤感受性と相関の高い脂質分子種を探索する。次に、各種物理化学的測定と構造活性相関研究から標的膜脂質との結合様式が良く理解されている、海洋天然物セオネラミド、ヘロナミド、およびサポニンをモデル化合物として設定し、化合物・脂質膜間の相互作用を解析する。脂質二重膜と化合物の相互作用は、蛍光標識体を用いた評価、表面プラズモン共鳴による検出、溶血活性との競合実験などを用いて行う。脂質二重膜を用いてin vitroでの化合物・脂質膜相互作用に影響を与えることが確認された膜脂質について、in vivoでその効果を検証する。すなわち当該膜脂質の代謝に直接的に関与する遺伝子の変異株を作製し、薬剤感受性や脂質の細胞内局在を観察する。
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