生命現象を分子レベルで理解する上で、細胞内/個体内で起こっているシグナル伝達ネットワークを、リアルタイムで時空間的に可視化する技術は必要不可欠である。ただし、これを実現するためのツールとして、動物細胞では当たり前に利用されている各種小分子センサー分子が、植物細胞では実用性に欠けることが多く、植物における動的なシグナル伝達挙動はほとんど解明されていないと言わざるを得ないのが現状である。その理由は、植物細胞特有の組織/小器官としての(1)細胞壁による小分子センサーの細胞透過性の低さと、(2)細胞内栄養貯蔵庫でもある巨大な液胞への疎水性分子の吸着である。このような植物細胞では、主にシグナル伝達が起こる細胞質や核、ミトコンドリアといった細胞小器官に、小分子センサーを送り届ける新たな方法論の開発が望まれている。このような背景の元、申請者は「植物細胞内小器官に機能性小分子を送達する」新たな分子設計指針を確立し、セカンドメッセンジャー等の生理活性物質を時空間的に可視化する蛍光ケミカルセンサー開発に繋げることを目標として研究を行った。具体的には、セカンドメッセンジャーの代表格であるカルシウムイオンに焦点を当て、植物細胞内カルシウム動態の可視化等に成功した。今後この分子設計指針を元に、様々な植物、特に遺伝子組換えが困難な実用植物におけるセカンドメッセンジャーの可視化、および関連するシグナル伝達機構の解析につながることが期待される。
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