研究課題/領域番号 |
16K13095
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
上野 隆史 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (70332179)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質結晶 / タンパク質工学 / 超分子 |
研究実績の概要 |
昆虫の多角体病ウイルスは、昆虫細胞感染後に多角体とよばれる結晶性蛋白質を産生する。この多角体は、自己集積反応により細胞内に1-5 μmの結晶を形成する(図 3a, 3b)。多角体結晶の本来の役割は、多角体病ウイルスの保護である。野生型の多角体結晶は結晶全体積のわずか19%の細孔空間しか持たないために、広範囲なpH、温度、有機溶媒、乾燥、凍結に対し安定に結晶を保持できる。この性質を利用し、細孔を有する鋳型蛋白質結晶を形成した。多角体結晶を鋳型とし、目的の蛋白質を規則正しく集積するためには、内部空間の拡張が必要となる。野生型の結晶構造からは、多角体単量体が結晶中で三量体構造を形成し、構造単位となって結晶が構築されていることがわかる。つまり、三量体同士が相互作用する部位のアミノ酸置換あるいは、フラグメント欠損を緻密に設計し、細孔空間を広げることが可能である。具体的には、高く結晶中の分子間相互作用に大きな影響を与えないと考えられるループやヘリックスの周辺部分を欠損させた変異体を作成し、細胞内結晶化を試みた。実際には、細孔は数 nmまで拡張でき、数十kDa程度の蛋白質の取り込みが可能と予想できた。得られた結晶の構造解析は、数μm以下の微小蛋白質結晶に特化したビームラインであるSPring-8にて行い、鋳型多角体結晶の結晶構造を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、高く結晶中の分子間相互作用に大きな影響を与えないと考えられるループやヘリックスの周辺部分を欠損させた変異体を作成し、細胞内結晶化を試みた。実際には、細孔は数 nmまで拡張でき、数十kDa程度の蛋白質の取り込みが可能と予想できた。得られた結晶の構造解析は、数μm以下の微小蛋白質結晶に特化したビームラインであるSPring-8にて行い、鋳型多角体結晶の結晶構造を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度作成した鋳型多角体結晶を用い、目的蛋白質集積反応を行う。最初に、サイズが比較的小さく(約4 nm)、熱的安定性が高い蛍光蛋白質として知られているsuper-folder GFP(sf-GFP)を用いる。昆虫細胞へ多角体を発現するウイルスとsf-GFPを発現するウイルスを同時に感染させる。この方法により、一つの細胞の中で鋳型多角体結晶が形成されるのと同時に、目的蛋白質であるsf-GFPが産生され、鋳型結晶へのsf-GFP集積が促進されると考えられる。結晶への取り込み反応を共焦点蛍光顕微鏡により追跡し、結晶内部への均一な取り込みと、その取り込み速度等を評価する。鋳型多角体結晶への取り込みには、細孔のサイズと形状に加え、静電的相互作用も大きな影響を与えると考えられることから、表面電荷を変えたsf-GFP変異体を作成し、鋳型多角体結晶への取り込みを比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた変異体合成より少ない数で合成が可能であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
さらなる、変異体の最適化のためにタンパク質合成を追加して進める。
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