研究課題/領域番号 |
16K13097
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
多喜 正泰 名古屋大学, 物質科学国際研究センター(WPI), 特任准教授 (70378850)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光音響イメージング / 近赤外吸収色素 / チオラクトン / 分子プローブ |
研究実績の概要 |
ポリメチン構造は多くの近赤外吸収色素にみられる基本骨格であるが,その代表であるシアニン系色素においても900 nmを超える極大吸収波長は達成されていない。本研究では光音響イメージングに利用可能な近赤外吸収色素として,電子受容性が高い環状チオエステル骨格の3,5位にジメチルアミノフェニル基を導入したドナー・アクセプター・ドナー型π共役カチオンを合成した。ジクロロメタン中における吸収スペクトルにおいて,極大吸収波長903 nm,モル吸光係数58500 M-1 cm-1という特異な光物性を示すことがわかった。この結果はTD-DFT計算(B3LYP/6-31G*)からも裏付けられ,環状チオエステル骨格を導入する効果は,主にLUMO準位の低下への寄与にあることが判明した。一方,メタノール中では近赤外域の強い吸収帯が消失した。これはメタノールが求核剤として機能し,チオラクトン骨格への求核付加がおこっているためであると考えられる。この反応性を制御できれば,環境応答性を有する光音響プローブに展開できると期待できる。 近赤外吸収をもつ色素開発に加え,本研究では光音響プローブとしての評価系を確立した。本評価システムが有効であるのか確認するため,サンプルとして金ナノ粒子を用いた。シリコンチューブに金ナノ粒子の水溶液を封入し,これにパルスレーザーを照射することによって得られる光音響波を検出した。濃度依存性およびレーザーパワー依存性などから,得られたシグナルはサンプル由来であることを確認した。ここで得られた成果はAngew. Chem. Int. Ed.に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライブラリーまでは至らなかったが,数種類のチオラクトン含有色素を得ることができ,構造物性相関について検証した。結果,吸収極大波長は電子供与性に依存し,供与性が増すほど長波長シフトすることがわかった。これは近赤外蛍光色素設計における重要な知見であり,次年度以降の研究計画に反映される。また,供与性が強すぎると色素骨格の化学的安定性が大幅に低下したことから,チオラクトン骨格に化学修飾を要することがわかった。一方,光音響シグナルの評価システムについてはある程度完成し,サンプル由来の有意なシグナルが検出できることを確認した。これは今後開発する色素を評価する上で極めて重要であり,当初の計画通りに研究が進行しているといえる。これを用いて本年度は脂肪滴中における色素の光音響シグナルを得る予定であったが,脂肪滴を構成するトリアシルグリセロールに対する色素の溶解性が極めて低く,観察に至らなかった。以上の結果から,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究成果を踏まえ,平成29年度はトリアシルグリセロールに可溶な近赤外吸収色素の開発から着手する。窒素上のアルキル基鎖長を調整することで溶解度の問題を克服する。また電子供与性が強い場合に化学的安定性が低下する原因を解明し,骨格への修飾などにより本課題の解決を図る。合成した近赤外吸収色素については前年度に続き分光学的特性を評価し,色素ライブラリーの拡充を図る。特にトリアシルグリセロール中で強い光音響シグナルが観測されるものについては,レーザー照射下における安定性も合わせて検討する。以上の検討により優れた性質をもつものについては,動脈硬化マウスへの尾静脈投与を行い,これを光音響イメージングにより可視化する。尚,in vivo光音響イメージングは共同研究によって遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の予算は主に物品費に充てていた。本年度は合成を中心に進め,精製に必要なカラム等を消耗品として購入する予定であったが,再結晶で精製できることがわかったため,購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
近赤外吸収色素のライブラリー化を図るため,化合物によっては再結晶できないものもある。本年度の予算は,精製に必要なカラムの購入に充てる。また,光音響装置を充実すべく,光学系に必要なミラーやサンプルを固定するためのホルダーなどの購入に充てる。
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