研究課題/領域番号 |
16K13100
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村田 道雄 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40183652)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / 相転移温度 / スフィンゴミエリン / フォスファチジルコリン / リン脂質 / 重水素NMR / 赤外分光スペクトル |
研究実績の概要 |
すでに申請者らが確立している合成方法に従って調整した4位、10位、16位のメチレンを重水素化した3種類のステアリン酸を調製し、スフィンゴミエリン(SSM)およびフォスファチジルコリン(PSPC)に導入した。これらリン脂質を用いて6種類の50%水和多重ラメラリポソームを調製し、重水素NMRおよびIRスペクトルの測定に供した。 温度を0.5℃刻みで変化させて、4位、10位、16位に重水素を2つ置換した脂肪酸を含有するSMとPCについて温度依存的な運動性の変化を観測した結果、SMにおいては、先端の16位が相転移温度より約2℃低温で融解し、10位が相転移温度において、4位が約1.5℃高温側で溶解した。一方、PCについては、16位と10位はSMと同様の融解温度を示したが、4位は10位とほぼ同じ温度で溶解した。また、IRスペクトルにおいては少し異なった傾向が観測された。すなわち、SMとPC両方とも、4位と10位においてほぼ同じ融解温度を示した。これは、SMの4位から10位の間のアシル鎖のおいて、PCの同じ位置に比べて揺らぎが顕著に増幅されていることを示しており、分子の充填状態の違いを反映しているものと考えている。この差異は、また、SMにおいてのみアミド部位での分子間水素結合が形成されることによってヘッド部分の運動性が低下し、その結果、4位が融解しにくくなっていると解釈できる。一方で、PCにおいてはそのような水素結合が存在しないので溶解が同温度で起こったものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
深度依存的なリン脂質アシル鎖の融解現象を観測することに成功した。また、融解温度の震度依存性において、スフィンゴミエリンとフォスファチジルコリンで差異が認めれた。 本年度において重要な重水素標識脂質の化学合成をほぼ完了することができたので、次年度では重水素NMRおよび赤外分光スペクトルの測定を集中的に行う。特に、赤外分光スペクトルでは、重水素化した部分の立体配座の変化(アンチ形、ゴーシュ形)を検出できるので、重水素ー炭素結合の揺らぎをおもに観測しているNMRと比較することによって、アシル鎖の動的配座変化を選択的に観測できる可能性もある。これによって、上述の2種のリン脂質で異なる深度依存的融解温度が測定された原因を解明できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
重水素化脂質の合成: 前年度合成した3種の脂肪酸に加えて、7位、13位の重水素標識ステアリン酸を合成し、同様にSMとPCを調製する。 NMRおよびIRスペクトルによる溶解温度の深度依存性の測定:前年度に引き続いて、ステアリン酸結合SMおよびPC膜について、正確な試料温度を測定できる条件のものに固体NMR測定を続ける。これら2種の純粋脂質の二重膜で深度依存的な溶解が観測された場合は、コレステロールを添加し、深度依存的溶解がどのように変化するかを調べる。IRでは厳密な温度制御下、同様の標識体についてνCD吸収(2Hによる波数シフトを利用)を用いることによってアルキル鎖の溶解を検出し、重水素NMRの結果と比較する。 生体膜モデリングのためのパラメータの取得: 脂質分子に最適化したCharmm力場を用いて、脂質分子の運動性を深度依存性についてSCD等のオーダーパラメターを動力学計算によって求める。同様の計算をコレステロール存在下においても行い、定説となっているコレステロールの深度依存的なアシル鎖のオーダー効果(浅い部分で運動性の抑制、深い部分で運動性の促進)の高精度化を図る。
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