近年、生体分子を詳細に解析する為に一分子イメージングや超解像イメージングなどの技術が注目を集めている。しかしながら、これらのイメージング法は、高輝度のレーザーを用いるため、観察時における蛍光色素の光退色が大きな問題となっている。よって、蛍光色素の光退色を抑制する汎用的な手法の開発は光を利用する現代生物学の進展に大きく貢献すると考えられる。 蛍光色素が光退色を起こす主な原因は、長寿命の励起三重項状態が起点となり、一重項酸素の生成やそれによる色素酸化などが生じるためと考えられる。それゆえ、長寿命の励起三重項状態を素早く基底状態へと戻すことにより、色素の光安定性の向上が達成できると期待される。そこで本年度はこれらの励起状態寿命を考慮した新しい蛍光色素の光退色抑制法の開発を行った。 一般的に、三重項状態の色素を緩和し基底状態へと戻す物質はTriplet State Quencher (TSQ)と呼ばれるが、本研究では希土類イオンがその発光メカニズムからT1状態の色素のエネルギーアクセプターとして働くことで、T1寿命を短縮させ、その結果光退色を抑制するのではないかという仮説を立てた。複数の希土類イオンを蛍光色素溶液に添加し、実際に色素の光安定性を向上させるかどうかについて検討した結果、ある種の希土類イオンを溶液中に添加したときに蛍光色素の光安定性が増加した。また、希土類金属イオンの配位子が蛍光色素の光退色に与える効果についても検討した。ある種の希土類金属イオンの蛍光色素の光退色抑制効果については、過渡吸収スペクトル測定など様々な物理化学特性を検討することで考察を行った。
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