主として感覚系の研究から、脳機能と神経回路の成熟は幼少期の経験に大きく影響され、しかもその影響は生涯にわたることが知られている。しかし社会性や人格を司る前頭葉機能の発達については回路レベルの研究はいまだほとんど進んでいない。そこで本課題は、幼少期ストレスにより衝動的攻撃性が増大する動物モデルを作成し、そのモデルを用いて衝動抑制の責任回路と考えられる前頭前野眼窩前頭皮質から扁桃体への神経投射を解析できる系を確立することを目的とする。これにより幼少期の経験が前頭葉神経回路の変化として保存され、成熟後の行動に影響をおよぼす可能性を探ることができる。 まず昨年度は眼窩前頭皮質が衝動的攻撃性に影響することを確認した。眼窩前頭皮質の活動を抑制すると、衝動的攻撃性が増大が認められた。次に衝動的攻撃性に影響する幼少期ストレスモデルを確立するため、幼少期の単独飼育と慢性的電気ショックを組み合わせたラットモデルを開発した。これらの動物では、成熟後に電気ショック誘発闘争試験により衝動的攻撃性の増大が認められた。種々の行動学的評価を行う中で、これまで報告されていない不安様行動の行動指標を見出した。オープンフィールド試験においては壁への寄りかかり行動が見られる。これは立ち上がり行動とともに探索行動と考えられてきた。しかし不安様行動が増大すると予想される環境(明るい環境など)で、壁の高い位置によりかかる行動が特異的に増加する傾向が見られた。これは抗不安薬により減少することから不安様行動と考えられ、さらにこれまで不安様行動の指標とされてきた中央領域での滞在時間に比べて、条件によってはより敏感な指標となりうることが分かった。
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