快情動は疾病予防や健康増進に有益であることが経験的に知られている。その脳内神経回路を明らかにすることによって、経験則に生物学的エビデンスを付与することが本研究の目的であった。実験動物ではヒトと異なり言語報告ができないので快情動の研究は困難とされていたが、ナルコレプシーの副症状であるカタプレキシー(情動脱力発作)は快情動によって引き起こされるので、この発作を指標として研究が可能になることに着目した。これらの発症原因は視床下部に存在するオレキシン含有ニューロンの脱落であることが既に明らかになっているので、このニューロンの脱落モデルマウスを材料としてカタプレキシー発作の直前に活性化される脳内神経部位を調べた。オレキシンニューロンを特異的に脱落させたモデルマウスは連携研究者の山中らが開発したものを申請者の所属機関の動物実験施設で繁殖させて以下の実験に用いた。 快情動を引き金として引き起こされるカタプレキシー発作発生時に活動していた脳部位を免疫組織化学的手法で同定するために、カタプレキシー好発時刻である夜間の行動を暗視カメラで観察し、発作開始直後ならびに発作の終了直後にマウスを安楽死させ脳を摘出した。最初期遺伝子産物の内で良く利用されているc-Fosよりも格段に時間分解能の高いp-ERKに対する抗体を用いた免疫染色によって、活性化されている脳部位を同定した。対照としてカタプレキシーを起こしていないマウスを比較の為に用いた。その結果、c-Fosを用いた先行研究の結果とは異なり、側座核が特に活性化されていることが明らかになった。
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