研究課題
本研究は、ラットが新規な場所情報を獲得する過程で起こる海馬CA1野内の場所細胞の活動に着目し、その可塑的変化に関与する樹状突起逆伝播スパイクの役割について解明することを目指す挑戦的な試みである。それは、独自の電気生理学的記録法とデータ解析法に、光遺伝学を活用した神経刺激法を組み合わせることで、視覚野ニューロンの臨界期に関するヘンシュ貴雄博士(ハーバード大学)の仮説を実証することでもある。同時に本研究は、多様な情報に対応し柔軟に活動するニューロンの実態を実験的に明らかにすることで、既存の情報科学的モデルに新たな神経科学的知見を提供することも目指す。本年度は、光遺伝学により抑制性細胞を選択的に神経刺激しながら、マルチニューロン活動を長期間安定して記録する方法を確立した。電極先端近くの全てのニューロンの活動をもれなく検出するため、専用の電極制御装置をPCB技術と3次元プリント技術を応用して、設計・開発した。また、超小型オペアンプ兼フィルタを構成し、耐ノイズ性を極限まで高めた。更に、マルチニューロン活動記録法と光遺伝学による神経刺激法を融合し、データ解析法についても改良を進めた。遺伝子改変技術を活用してパルバルブミン陽性細胞特異的にCreを発現したマウスに対して、アデノ随伴ウイルス(AAV:FLEX:ChR2)を介し光活性化蛋白質チャネルドロプシン2(ChR2)を発現させることで、パルバルブミン陽性細胞だけを選択的に神経刺激した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、光遺伝学により抑制性細胞を選択的に神経刺激しながら、マルチニューロン活動を長期間安定して記録する方法を確立した。電極先端近くの全てのニューロンの活動をもれなく検出するため、専用の電極制御装置をPCB技術と3次元プリント技術を応用して、設計・開発した。また、超小型オペアンプ兼フィルタを構成し、耐ノイズ性を極限まで高めた。更に、マルチニューロン活動記録法と光遺伝学による神経刺激法を融合し、データ解析法についても改良を進めた。遺伝子改変技術を活用してパルバルブミン陽性細胞特異的にCreを発現したマウスに対して、アデノ随伴ウイルス(AAV:FLEX:ChR2)を介し光活性化蛋白質チャネルドロプシン2(ChR2)を発現させることで、パルバルブミン陽性細胞だけを選択的に神経刺激した。以上のように、当初の計画通りに研究が進展したため、おおむね順調に進展していると判断した。
本年度までに開発したマルチニューロン活動記録法、光刺激法、及びデータ解析法を統合し、実際にラットが未経験な場所を認知している際のマルチニューロン活動を記録し解析を進める。具体的方法は下記の通りである。(1)海馬CA1野の錐体細胞層を中心にシリコン電極を刺入し、そのラットが未経験の1m×1mの実験ボックス内で餌を求めて行動している際、マルチニューロン活動を記録し続ける。マルチニューロン活動と同時に計測している局所脳波(LFP)に鋭波とリップル波を確認することで錐体細胞層を判別する。(2)記録したマルチニューロン活動を個々のニューロン活動に選別し、それぞれのニューロンに対して、スパイクの波形情報から細胞体、樹状突起の判別を行う。(3)パルバルブミン陽性細胞への光刺激に対する樹状突起逆伝播スパイクの反応と、相互相関解析法を用いて、細胞体から樹状突起へ逆伝播するスパイクを検出し、単一ニューロンの細胞体と樹状突起のペアを検出する。ラットが未経験の環境を認知する際には、場所細胞が持つ場所情報が数分で可塑的に変化することが知られている。その可塑的変化の過程と樹状突起逆伝播スパイクの伝播確率との関係について、場所情報量を中心として解析する。また同時に、樹状突起逆伝播スパイクを抑制し制御していることが示唆されている介在細胞のパルバルブミン陽性細胞の活動を神経刺激により制御することで、可塑性と樹状突起逆伝播スパイクの因果関係を解析する。
本研究の目的である「海馬場所細胞の可塑性と樹状突起活動の因果関係の解析」を達成するためには、光遺伝学を活用し、樹状突起を選択的にに興奮あるいは抑制する必要がある。その追加実験を実施するため、次年度使用額が生じた。
次年度使用額は、光遺伝学を活用し、樹状突起を選択的に興奮あるいは抑制させる追加実験を実施するために使用する。また、その成果を学会で発表し、研究成果を論文として投稿する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件)
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