研究課題/領域番号 |
16K13120
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 明子 (村上明子) 北海道大学, 経済学研究科, 研究員 (50735826)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イラン / 女性 / 性別役割規範 / 社会貢献活動 / 生産領域・再生産領域 |
研究実績の概要 |
平成28年度はまず、文献資料を基にして本研究課題のキー概念や関連研究動向の整理を進めた。具体的には、慈善活動や社会貢献活動についてイスラーム圏ならびにイラン国内での実践状況や倫理的背景を概観し、ペルシャ語キーワードを現地の社会コンテクストに即して整理した。 以上を前提に、平成28年7月~9月にかけて、社会貢献活動・慈善活動に関する現地調査を行った。調査地はイラン北西部のアルダビール州であり、調査に際しては地元大学の全面的な協力を得た。アルダビールは住民の大半がトルコ系のアゼリーであり、言語や生活習慣に地域独特の要素が存在する。なお調査では、社会貢献・慈善活動だけでなく、礼拝所で行われる宗教教育、家族・親族・近隣住民同士で日常的に開催される各種集まり、職場における互恵的慣行など、様々なレベルで実践される「非営利」かつ「利他的」行為を対象とした。 その結果、有力者を中心とした大規模な社会貢献活動の事例をアルダビールの各所で観察すると同時に、個人の問題意識によって社会保障制度の間隙を埋める規模での社会貢献が行われていることも分かった。このように個々人の良識が地方社会の秩序や安定を支え、役割規範の再生産システムが公的空間/私的空間の別を問わず作用していると考えられる。また、様々なレベルの集会への参与観察を通して、家族・親戚集団・近隣コミュニティをベースに実践されている習俗的なインフォーマル教育の重要性が看取された。 なお、国際関係や中央政治に代表されるマクロの動態が地方の経済・社会構造にも大きな影響を与えており、このような現状に対処するため親族ネットワークが活用されていること、そして日常における伝統的な生活スタイルの踏襲を通して、その維持と強化が図られている様子も伺えた。 以上の成果は関連学会で報告し、また特に特徴的であった親族間の互恵関係やインフォーマル教育について論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はまずテヘラン首都圏で調査を実施しつつ、アルダビールでの調査手続を進める予定だった。しかしアルダビールでの受入大学の準備が予定よりも早く、かつ好条件で整った。テヘラン首都圏ではこれまで調査実績があるがアルダビールでの調査実績がなかったこともあり、平成28年度は予備調査といった意味合いも含めて、アルダビールで集中的に調査を進めることとした。 アルダビールでは職場・家庭・地域/親族コミュニティ・宗教コミュニティなど、様々な局面での調査を実施することが出来た。また地元の研究機関や有力者コミュニティとのネットワークの整備されつつあり、本研究に関する現地での協力体制の構築は順調に進んでいる。 以上から、調査実施の順番・内容に多少の変動はあったものの、総合的に見て研究計画は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降もアルダビールとテヘランを中心により多くの事例を蓄積していきたい。特に重点的に検討したいのは、役割規範の再生産システムと習俗的なインフォーマル教育の関係性である。 アルダビールの調査では、家族・親戚集団・近隣コミュニティをベースにインフォーマル教育が実践されており、それが個々人における役割規範の受容に大きく影響している様子が看取された。他方で、個人・家族単位での慈善活動が社会保障制度の間隙を埋めている様子も確認された。こうした草の根の社会貢献活動は、ロールモデルの共有、ジェンダーや互恵など社会規範の再生産の場としても機能しており、しかも伝統的に受け継がれている。イスラーム共和制を採用するイランでは、家族を基本単位とした社会統合論理が展開されているが、こうした「上から規定される統合論理」に呼応する(もしくはパラレルな)形で、家庭単位での善行が実践されている様子が伺えた。 これらが現代イランの社会コンテクスト上でどのように意義付けられるか、議論を更に深めることで次年度以降の具体的な研究成果に結びつけたい。 また可能な限り調査地を増やすべく、現地関連機関との関係調整も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は現地調査計画を変更したことで、予算の使用状況も当初の計画内容から変わった。具体的には7月~9月にアルダビールで当初の予定よりも長い期間で調査を進めることとしたため、当該地域での調査費用が嵩み、前倒し支払請求を行った。 その後、年度末にはテヘラン首都圏で調査を予定していたが、研究計画を再度練り直した結果、次年度以降に延期することとなった。以上により次年度使用額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降もアルダビールやテヘラン首都圏を中心に調査を進めることで、事例の積み重ねと課題の相対化に当たりたい。 また現地で文献資料の収集も進め、課題の包括的検討を目指す。なお文献資料については、アジア経済研究所や東大東洋文化研究所を中心に国内にもかなりの蓄積がある。これらの確認・整理はもとより関係する研究者との情報交換にも努め、課題に関する多角的なアプローチ方法を探っていきたい。 これらの作業を着実に実施しするために、当該助成金を使用していく。
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