研究課題
前年度に引き続き、家庭・コミュニティ単位での社会貢献活動・慈善活動の実態把握のため現地調査を行った。今年度は、シーア派イスラーム最大の宗教行事が行われるモハッラム月(9月下旬~10月下旬)に調査を実施することで、宗教行事と慈善活動との相互作用について検討することを重点課題とした。主な調査地は前年度と同様、北西部のアルダビール州アルダビール市で、服喪行事と連動して行われる様々な社会貢献活動への参与観察を行った。その結果、伝統的な炊き出し活動や募金活動の他に、献血(男性のみ)や街角清掃など社会貢献活動の種類が多様化していること、特に清掃活動へは若年層が多く参加しており、SNSなどITCの普及がそした活動の後押しをしていることが確認された。また、市内の非営利団体が進める学校建設支援についても、調査することが出来た。関係者によれば、経済格差や都市-農村格差は特に教育面において深刻であり、しかもこの分野の問題は世代間で継承されてしまう嫌いがあるという。また、財政的な問題から特に地方においては、教育インフラ整備は民間篤志家頼みという現実がある。調査団体では、教育分野での就業経験のある女性が積極的に活動に携わっているケースが目立った。他方で、地元の著名な篤志家のエピソードを初等・中等教育機関と連携して啓蒙するなど、公的システムをも包摂する重層的な活動実態が確認された。調査地における女性の多様な社会貢献活動の特徴として、ロールモデルの共有や地域社会への愛着・シンパシーが挙げられる。また今後への布石として、テヘラン市内のいくつかのNGOと情報交換を行った。近年のイランでは、女性の社会的企業家の活躍も目立ち始めており、彼女らについて基本的な情報や支援状況について情報を整理した。以上の成果の一部は、2018年5月の国際シンポジウムで発表する。
3: やや遅れている
昨年度に引き続き、現地調査はアルダビール州アルダビール市を中心に実施した。当該地域での調査は順調に進み、現地関係者とのやり取りも良好に重ねているが、その他の地域での詳細な調査の実施は時間的な制約から見送ることとなった。ただし、来年度以降に調査を実施出来るよう現地関係者との情報交換を重ねており、また予備的調査もいくつかの都市で実施済みである。また現地での公刊資料の収集は順調に進んでいる。したがって、平成30年度の調査実施計画を綿密に練り、現地との連携も更に強化することで、調査実施に関する今年度の遅れは十分に取り戻せるものと思われる。
次年度は研究計画の最終年度となる。テヘランとアルダビール以外では、タブリーズやカーシャーンなどで調査・情報収集を予定しており、各地での事例の積み重ねと課題の相対化に当たりたい。これまで調査を進めてきた範囲では、イラン女性の社会貢献活動は、ボランティア的要素による「社会的評価の高さ」が認められる一方で、時には非専門職として家事労働と同一視されるがゆえの「労働としての評価の低さ」が看取される。イラン女性の関わる領域や、そして彼女たちを支配する規則への意識(潜在的/顕在化ともに)をどのように把握していくか、また「仕事」「役割」に存在する「威信」をどのように構造化するか、以上を中心に課題のとりまとめを進めたい。
現地調査の遅れを取り戻すため、これまで調査を行ってこなかった地域での調査を進めていきたい。また現地で文献資料の収集も引き続き進めていく。なお文献資料については、アジア経済研究所を中心に国内にもかなりの蓄積がある。これらの確認・整理はもとより関係する研究者との情報交換にも努め、課題に関する多角的なアプローチ方法を探っていきたい。これらの作業を着実に実施しするために、当該助成金を使用していく。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Sasakawa Peace Foundation Survey Reports
巻: - ページ: 印刷中