研究課題
■イスラーム経済学の基本文献資料の収集:前年度に続いて、イスラーム経済学の理論的特徴を解明するための基本文献を国外の図書館・書店等で収集した。今年度は、アラビア語、ウルドゥー語の文献収集に重点を置き、カイロ(エジプト)、ラホール(パキスタン)でそれぞれの言語の文献収集を行った。■イスラーム経済学の理論的特徴の解明:本研究では、イスラーム経済学が独自提起している経済ビジョンや制度の中から、重要かつ、普遍化の可能性のあると思われるイスラーム経済知を選び出し、資本主義との対比を強く意識しながら、その理論的特徴の解明を行った。特に、今年度は、ザカートと呼ばれる稼いだ富を神に返す宗教義務行為に焦点を当てて、その理論的特徴の解明と普遍化の可能性を探った。ザカート制度は、返還された富が困窮者や社会的弱者に再配分されることで、社会福祉の役割を果たしているが、富の返還は、自らが救われたいという徹底した利己心によって動機付けられている。そのような利他心に依存せずに、個人の利得(効率性)と社会福祉の充実(公平性)が両立するしくみが、信仰以外のインセンティブの源泉によって設計可能かどうかを検討した。■「イスラーム経済知の普遍化」研究会の開催:本研究が試みるイスラーム経済知の普遍化の作業では、その普遍化が本当に理解・活用可能なものであるかを検証するために、様々な分野の研究者を招へいする「イスラーム経済知の普遍化」研究会を2017年9月と2018年2月に開催した。前者では、経営学、農業経済学の専門家を、後者では人類学の専門家を招へいし、イスラーム経済知の普遍化に関する意見交換を行った。■研究成果の社会への発信:本研究の成果をわかりやすく社会に発信するために一般書(長岡慎介『お金ってなんだろう?あなたと考えたいこれからの経済』平凡社、2017年)を刊行した。
1: 当初の計画以上に進展している
イスラーム経済学の基本文献資料については、当初の予想以上の数の文献資料を収集することができた。また、イスラーム経済学の理論的特徴の解明についても、収集した文献をもとに十分な解析を行うことができた。「イスラーム経済知の普遍化」研究会についても順調に回数を重ねることができている。さらに、一般書の刊行によって、本研究の成果をいち早く社会に発信できたことは、当初計画の予想を上回る成果だと考える。
次年度は本研究の成果を様々な研究分野に積極的に発信していくことに努めたい。
端数分が生じたため、次年度の物品費あるいは旅費と合算して使用したい。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Stomu Yamash’ta, Tadashi Yagi and Stephen Hill eds. The Kyoto Manifesto for Global Economics: The Platform of Community, Humanity, and Spirituality (Springer)
巻: なし ページ: 395-415
村上勇介・帯谷知可編『秩序の砂塵化を超えて―環太平洋パラダイムの可能性』(京都大学学術出版会)
巻: なし ページ: 221-248