本研究は、近代内モンゴル東部草原からの有機物流出の一経路として20世紀初頭における大連-鹿児島間の「獣骨貿易」についての検証を主要目的とする。本年度は最終年度として研究代表者の永井が学会発表及び国内における資料調査及び現地調査を実施したほか、研究分担者である小都も獣骨貿易実施背景として獣疫・畜産衛生の面から資料整理を進め、さらに永井はこれまでの資料調査・現地調査と九大農学部資料整理によって得られた成果から大連-鹿児島間の獣骨貿易開始経緯とその背景を検証した。また研究総括として永井は国際シンポジウム「帝国とグローバライゼーション―社会生態史的アプローチ―」(2020.3.1、京都)にてメインプレゼンターとして「草原からシラス台地へ: 20 世紀初頭の内モンゴル東部草原地域からの獣骨輸出による有機物流出過程」というテーマで研究報告を行った。海外での資料調査と並行して初年度から院生を雇用して行っている九州大学農学部所蔵の戦前旧植民地関連資料の整理では、東アジア肥料貿易資料スキャン作業がほぼ完了したため、順次インターネットで公開予定である。他に学会報告として、永井が上記資料整理によって得た知見や、鹿児島での資料調査・現地調査に基づき、日本土壌肥料学会にて「20 世紀初頭の鹿児島県における土壌の変化と米収量の向上-薩南地域を中心に―」(2019年9日4日、静岡大学)という報告を行った。また今年1、2月に鹿児島市と及び鹿児島各港で現地調査を行い、従来の中国北部草原-鹿児島シラス台地という2地点におけるリン資源の移動といった視点から、鹿児島では自然港を利用した肥料用骨貿易が江戸後期から始まっており、各地の伝統的な産業構造に、草原-海-シラス台地という自然条件と近代におけるリン資源の世界商品化が重なって20世紀初頭における中国-鹿児島間の獣骨貿易の盛況が引き起こされたことを明らかにした。
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