研究課題
本研究はラオス南部に特有の寄生虫疾患「メコン住血吸虫症」について、地域研究の視点と手法を応用したエコヘルス・アプローチによる、効果的かつ持続的な対策手法の開発を目的としている。平成28年度は第一に、協力者とともにラオス南部の流行地で感染状況と対策の実態を調査した。メコン川本流・支流の河岸30地点で中間宿主の巻貝の生息調査を実施した。その結果、岩場にできた水たまり(ロックプール)のなかに、大きさわずか数ミリの巻貝が多数生息していることが分かった。また、住民からの聞き取りと観察により、水浴や採集など日常的な活動が岩場で行われており、自覚のないうちに巻貝と接触し皮膚感染していることが推察された。これらのデータを感染リスクマップとして整理した。環境改善と住民のリスク暴露削減を同時に進めることが対策のカギとなることがわかった。第二に、各地点の中間宿主貝の個体数を効率的に把握するために、水サンプル中のDNAを測定する手法の開発に取り組んだ。対照実験により、一定の精度向上が確認できた。第三に、対策の状況を調べるため、現地の小学校の集団駆虫薬治療を観察した。治療効果を追跡して検証するために、患者登録システムが不可欠であることがわかった。また、現地の住民30名を対象に質問票調査を実施し、メコン住血吸虫症に関する知識や、水と衛生環境、実際の症状や駆虫薬の副作用に関する知識を調査した。人によって知識量に偏りがあることがわかった。これらの調査結果は、平成28年10月にラオス・サワナケートで開催された「第10回ラオス保健研究会議」、ならびに平成29年3月にタイ・コンケンで開催された「アジアの顧みられない熱帯病に関する会議」で報告し、出席者との討議を通してメコン住血吸虫症の対策研究について認識を深めることができた。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、次年度に予定している検便サンプル調査の前提となる予備的なデータを効率よく集めることができた。これらのデータをもとに対象地域のなかでも特に感染者の多い高流行地を特定し、検便調査の対象をしぼることができた。
次年度は高流行地の小学生を対象に検便・検尿、ならびにメコン住血吸虫症に関する知識や行動についてのKAPサーベイを実施する。検便と検尿の試料をもちいて、より簡便で、かつ高精度の診断方法を開発する。また、KAPサーベイの結果をもとに、効果の高い健康教育プログラムを開発する。さらに、住民、行政、研究者による合同会議を通してネットワークを構築し、効果的な対策の確立に向けて連携を図る。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
The Canadian Entomologist
巻: 149 ページ: 1-7
10.4039/tce.2016.64
Acta Tropica
巻: 169 ページ: 1-7
10.1016/j.actatropica.2017.01.008
環太平洋文明研究
巻: 1 ページ: 69-92
Malaria Journal
巻: 15 ページ: 508
10.1186/s12936-016-1552-7
Tropical Medicine and Health
巻: 44 ページ: 12
10.1186/s41182-016-0012-y
巻: 15 ページ: 499
10.1186/s12936-016-1548-3
The Korean Journal of Parasitology
巻: 54 ページ: 543-547
10.3347/kjp.2016.54.4.543