世界自然遺産に登録されている屋久島では1990年代からシカが急激に増加し、希少な植物に対するシカの食害が問題となっている。またサルによる農作物被害も深刻である。地域住民による狩猟は、シカやサルの頭数管理を実施するうえで重要な役割を果たしうると考えられるのであるが、これまで屋久島で行われてきた「伝統的」狩猟については記録が限られており、伝統的狩猟が屋久島の生態系にどのような影響を与えてきたのか十分に議論されてこなかった。そこで、2012年に発見された約60年前の霊長類学者による未発表フィールドノート(これには、当時の狩猟実態が猟師からの詳細な聞き取りをもとに記録されている)をおこし、内容を分析することによって、1950年代の屋久島の猟師がそれぞれのなわばりを持ちながら山に対する民俗知識をもちいて狩猟を行っていたことや、狩猟は現金獲得のための重要な手段であり、活発な狩猟活動が行われていたことが明らかとなった。そして、このような狩猟は結果的に野生動物の増加を制御していた可能性があることが示唆された。現代の狩猟は、有害駆除やジビエの販売など新たな目的が加わっており、歴史的に新たな局面を迎えつつあること、1950年代に行われていた狩猟の文化的価値が引き継がれていないことなどが明らかになった。これらの成果については、屋久島学ソサエティや日本霊長類学会で発表し、屋久島学ソサエティの学会誌に寄稿した。また、住民に対しては狩猟の企画展とトークイベントを開催した。今後は1950年代以前の狩猟の形態や1950年代から現在にかけて開発や環境政策とともに変動する狩猟形態の変容について詳細に明らかにすることや、有害駆除や環境政策の影響で新たに生じている猟師のコンフリクトの解決策を検討する必要がある。
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