アジアの女性の国際労働移動については1970年代より注目を浴びてきた一方、エチオピアを含むサブサハラ・アフリカ諸国も1990年代にはすでに多くの女性を中東に送り出していたにもかかわらず、その状況についての研究蓄積は少ない。NGOが虐待など労働状況の劣悪さを報告しているものの、サブサハラ・アフリカの女性の中東への出稼ぎを目指す動機、メカニズム、そして中東での生存戦略についてはこれまでほとんど研究対象とされてこなかった。本研究は、エチオピア農村部出身の若年層女性の中東諸国への労働移動に焦点をあて、現地調査、統計データ、政府による公刊文書等を用いて、彼女たちをとりまく経済・社会的環境を把握し、中東への移動後の生存戦略を解明することを目指した。そこから明らかになったのは、中高等教育修了レベルの女性の急増に対して国内での就業の受け皿が追いついていないために、若い女性たちが、国内の都市部への移住ではなく、農村から直接中東への出稼ぎを選択しているという状況であった。 このような状況で中東への労働移動を選択した多くの女性は、移住先国における労働条件についての具体的な情報をもたないま、移住後に劣悪な労働環境に直面していた。また、他国からの移民労働者との競合においては、十分なトレーニングを受けていないエチオピア女性は、相対的に低い労働条件に甘んじざるをえず、事前の十分なトレーニングの重要性が明らかとなった。 成果は、2020年3月に刊行された『アフリカ女性の国際移動』(アジア経済研究所、児玉編著)において「アフリカ女性の国際移動」「湾岸アラブ諸国に就航すエチオピア人女性-就業機会を求めて-」として出版された。
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