研究課題/領域番号 |
16K13133
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
海部 陽介 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, グループ長 (20280521)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 旧石器時代 / 航海術 / 琉球列島 |
研究実績の概要 |
多彩な分野の専門家を招いて2度の研究会を行なった。2016年6月の1回目の研究会の1日目には「丸木舟の可能性と潜在性」と題した討論会を行い、縄文~弥生時代に利用されていた丸木舟について多角的な検討を加え、旧石器時代に丸木舟が存在したかどうかという疑問について意見を交わした。存在しておかしくないという意見が強かったが、同時に丸木舟がそもそも外洋で使える舟なのかといった性能面についての我々の理解が不足していることが浮き彫りになった。2日目には、過去5万年間の海水準変動、黒潮の変動、琉球列島の旧石器遺跡、島へ移住するために必要な渡航者数シミュレーション、実験航海の歴史などについての研究発表がなされ、3万年前ごろの琉球列島への移住が困難な海を越える必要があったという仮説が、最新データから支持されることが確認された。さらに旧石器時代の航海において、帆があった可能性やあるべき装備等について議論し、この月の後半に実施した、別予算による草舟の与那国島→西表島実験航海に反映させた。 2017年1月の第2回の研究会は、物的証拠の乏しい旧石器時代の航海術を検討する上で、物的証拠のある時代の航海に関する知見を整理しておく必要があるとの問題意識で開催した。9名の専門家から、考古学的証拠から追える日本の古代航海(縄文~古墳時代)と、民俗例からみた日本やシベリアにおける丸木舟・準構造船による伝統航海技術について発表頂いた。古代舟で帆走が行なわれていた物的証拠が存在せず、その推進力は櫂やオールであったことなどが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究会や出版された論文などから、以下のような関連情報の整理が進んだ。 琉球列島への移住パターン:沖縄島南部に所在するサキタリ洞遺跡から、世界最古の釣り針を含む貝殻製の道具やビーズと、カニなどの焼けた食物残渣が発見され、これまで不明だった沖縄島における旧石器時代人の生活の一端が見えてきた。同時に、本遺跡の年代が3万5000~3万年前にさかのぼることが示され、沖縄島への人の移住がこの時期にさかのぼることが確実になった。島にたどり着いた集団が、その後人口を維持するのに必要な集団サイズについての研究が進められ、暫定的な結論として数名の男女では人口存続の確率が低いことが示された。 古地理・海流: 最終氷期において琉球列島は台湾から陸続きであったとの解釈が過去に提案されていたが、海水準変動や島における隆起の証拠など最新の地球科学的データはそれを支持しないことが確認された。現在、台湾と与那国島の間を流れる黒潮本流の位置変動についての研究の進捗状況が報告され、暫定的ながら現在と大きな変化はないことが示唆された。 可能な舟のタイプ: 考古学的証拠から、風を動力として使いこなす本格的帆船の登場は、日本においても歴史時代になってからのようである。従って先史時代、ましてや旧石器時代の舟は基本的に漕ぎ舟であったと考えられる。与那国島において地元の植物で草舟を製作して漕ぎによる実験航海を行なったが(別予算)、その成果を分析してこのタイプの舟の特性を整理した。水に浮く種類の草を強く束ねて浮力を出す原理の舟で、浮力と安定性に優れるが、重いので速度が出ず寿命も短いといった難点があることが理解された。草舟に使える草は、台湾から日本列島まで広く自生しているので、旧石器時代に作ることはできたはずであるが、今後他の候補も検証してその妥当性を検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
上述のような個々の関連情報をさらに深めていき、旧石器時代の航海の1つのモデルにまとめあげていくことが、来年度の目標となる。そのために、日本列島周辺域の古代航海術についての研究会を実施する。さらに現在別予算で進めている竹製の舟の実験成果を分析して、竹の舟についての理解を深めるとともに、忘れてはならないもう1つの候補である丸木舟について性能テストを行う。
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