当該年度は、引き続き「LGBT運動」とセクシュアリティの政治が、一方でオリンピックを前提とする東京都のネオリベラルな開発要請、他方で戸籍に基づく従来の家族制度の変更を強く忌避する道徳的保守層を支持基盤とする政府の方針という二方向の政治とどのように交渉しているのかを分析し、国際研究会での招待講演、国内学会への招待登壇などでその結果を公表した。
同時に、2018年以降に世界各地で観察されるようになったフェミニストやレズビアン女性の一部によるトランスジェンダー女性に対する攻撃の日本におけるあらわれについて考察し、これを今世紀の日本でのジェンダー/セクシュアリティの政治が多様な諸身体をどのように扱ってきた(扱い損ねてきた)のかという文脈に位置付けた発表を国際シンポジウムそのほかで行った。
また、身体の近接性と連帯についての研究を引き続き進め、とりわけ非規範的身体にとっての物理的近接の不可避性とそのリスクが多様に異なる諸身体の共存可能性にどのように関わるのかという点を中心として、この問題設定を上述した日本におけるトランス排除の問題と交錯させて、論考を発表した。 これらの問題設定を踏まえて、フェミニスト/クィアが「今、こことは違う世界」をどのように想像し、そこにどのような問題/可能性が現れるかについてのシンポジウムを年度末に予定していたが、これについてはコロナウィルス感染拡大のため、実施を見合わせざるを得なくなった(本科研費研究の終了後にはなるが、シンポジウム自体は2020年度中に多少の変更を入れた形で実施する予定で、現在調整中である)。
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