本研究の目的は、トランスジェンダーとインターセックスを取りまくスポーツ環境について、公平性と倫理の観点から考察することである。本研究では、はじめに、国際大会における女子選手のセックスチェックやトランスジェンダーに関するガイドラインをもとに、「女性」であることの根拠が、外性器からDNA、ホルモン数値へと移行してきた経緯を歴史的に考察し、性別カテゴリーが歴史的言説であることを明らかにする。次に、MtFトランスジェンダーの女子種目参加への寛容度と、FtMトランスジェンダーの男子種目参加への寛容度を比較し、ジェンダー非対称性の要因を、競技レベルとの関連において考察する。最後に、性別規定の厳格化について、大会レベルや競技者レベルとの相関性を、スポーツ競技者への定量調査により明らかにする。 最終年度では、体育会に所属する大学生約400名に対して質問紙を用いた量的調査を行い、Rを用いた統計分析の結果に基づいて英語論文を作成した。この論文はインパクトファクターの高いジェンダー研究専門の国際ジャーナルに現在投稿中である。さらに、グループディスカッションを用いて質的データを収集し、構成主義的グラウンデッドセオリーアプローチに基づいて分析した結果を日本語論文にまとめて学術誌『JunCture』に掲載した。 本研究は、スポーツにおける性別規定が、競技の公平性と競技者のプライバシーを守る倫理との二律背反性の狭間にあることを、フェミニズムとクィア理論の観点から明らかにしたことに大きな意義がある。さらにこうした二律背反性が競技レベルと相関関係にあることを明確にすることにより、トランスジェンダーやインターセックスへの対応のみならず、競技における公平性の概念そのものにもダブルスタンダードが存在することが証明できた。
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