本研究の目的は、母系社会パラオの親族集団内の女性グループに教育と職業機会に関するヒアリング調査を行い、女性同士による相互支援の仕組及びそれが必要とされた社会的背景を明らかにすることである。当初の計画通り、以下のことを行った。 1)関係機関へのヒアリングから、母系社会に特徴的な制度や規則の有無、それらと教育や職業、家事や育児と伝統的慣習との関係性を洗い出す。 2)親族集団のメンバーに対するヒアリングから相互支援の方法や内容、メンバー内での役割の違い、伝統に属する知識や理解度の違い、集団間の格差の状況を明らかにする。 その結果、近代セクターでは、教育や職業機会に関して母系社会の女性を特別支援するプログラムはないことが分かった。しかし、親族集団に所属するメンバーの社会保障の一環として、助け合いが行われており、特に女性は進学や職業機会を得るために情報交換や経済的な協力を行っている様子が見られた。一方で、学歴エリートと呼ばれる者たちに中には、親族集団への貢献をあまりせずに、自己中心的な利益の獲得に走り、伝統的な助け合いの仕組にフリーライドしていると見做される者も見られた。 小さなコミュニティで、ひとりが複数の集団に所属し、秘密も多い社会においてヒアリング調査だけではメカニズムの解明が難しいと判断したため、実験社会科学の手法を取り入れ、幸福度尺度、ジェネラティビティ尺度、現金を用いた向社会性尺度の実験を組み合わせて、助け合い、次世代への協力、利他的行動を測かり、統計的に分析することにした。分析の途中であるが、助け合いを基調とするパラオでは協力的でない学歴エリートは収入が高くても幸福度が低い傾向が見られ、助け合いを基調とする社会においては、教育や就業機会を得るという実利的な理由だけでなく、幸福度にも影響している可能性がある。今後、幸福度と文化、教育の関係についての研究を進める必要性を感じる。
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