研究課題/領域番号 |
16K13138
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
加藤 めぐみ 都留文科大学, 文学部 英文学科, 准教授 (70717818)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フリードリヒ・S・クラウス / 佐藤民雄 / 性文化 / ナチス政権 / 焚書 / 日本 / カリフォルニア / 検閲 |
研究実績の概要 |
戦間期ヨーロッパにおいて日本の性文化がいかに受容されていたかを明らかにする本研究の鍵として、継続的にオーストリアの人類学者 Friedrich Kraussと日本人の性文化研究者 佐藤民雄(佐藤紅霞)との交流の実態の調査を進めている。 そこで2018年度はUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のCharles E. Young Research LibraryにあるFriedrich S. Krauss Papers, 1884-1930 Collection number 996に保管されている18箱に及ぶKraussの残した資料の中に、Kraussと佐藤民雄との交流を裏付ける手がかりとなる文書や書簡が含まれていないか、現地でリサーチを行なった。図録のタイトルからBox11にあるWritings of other authors and correspondenceに特に注目をしたが、結果的にそこにも日本の性文化関連の資料は含まれていなかった。 来日経験のないKraussが『日本人の性生活 Japanisches Geschlechtsleben』の全二巻を執筆した際に、参照したはずの日本関連の資料がウィーン大学図書館に保管されていないことが2017年3月の調査で明らかになったため、Kraussの死後、手元に残されていた資料が全部大西洋を渡り、保管されているとされるカリフォルニア大学図書館でのリサーチを実施したが、Kraussの研究の中でスラブと日本の性文化研究が重要な位置を占めているにもかかわらず、カリフォルニアに日本だけでなく性文化に関する資料が一切残されていないということが判明した。文書の不在から、あらためて日本の軍事政権下、また独墺のナチス政権下において、性文化研究が検閲や抑圧の対象となり、焚書とされた可能性が濃厚であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
戦間期ヨーロッパにおける性文化をめぐる研究自体が当時の国家権力により弾圧され、研究の成果物である出版物も発禁や焚書の対象であったため、さらにその出版に関わる資料は破棄、処分されている可能性が極めて高い。また、たとえ研究者自身はそれらの資料を密かに大切に保管していたとしても、その資料を公的な場所に積極的に寄贈するという可能性も想定されない。また研究者の死後、残された遺物を遺族が整理する際に、性関連の資料、書物は羞恥心から意図的に排除、処分したであろうとも想像される。 カリフォルニア大学図書館の資料が当たり障りのない民俗学的な資料にとどまっていた背景にそのような第三者の意図が感じられた。ウィーン、アメリカでの一次資料の収集、リサーチで、そのような理由から思うような成果が得られなかったため、研究は計画より大幅に遅れ、計画通りの研究成果を出せていないというのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
Kraussと佐藤民雄との交流についての先行研究としてウィーン大学の Sepp Linhart, Friedrich S. Krauss und Tamio Satow: Ein bibliobiografischer Versuch zu einer internationalen Freundschaft und zur Geschichte der Sexualforschung in Osterreich und Japan「フリードリヒ・S・クラウスと佐藤民雄:オーストリアと日本における国際的友好関係及び性科学の歴史についての書誌学考察」があるが、そこでも解明されていない二人の交流を探る糸口を探してLinhart氏のアドバイスを受けて、2018年9月カリフォルニア大学の資料収集を行なった。しかし、そこで成果を得られなかったので、今後は日本国内の佐藤民雄(佐藤紅霞)周辺の性民俗学関連の人間関係や「市井の学」のあり方に着目することで、佐藤の立ち位置を確認し、そこから戦間期の日本と欧米との民間レベルの交流の可能性を見出していきたい。そもそも日本の性文化・性民俗学の研究者たちが欧米からどのような形で最新の性文化研究を受容したのか。輸入のあり方を詳らかにすることで、輸出の可能性も検討し、そこからKraussから佐藤、佐藤からKraussへ、という双方向的な国際的な交流関係を明らかにするヒントが得られるのではと期待しつつ、研究を続けていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は3年間計画で進める予定であったが、発禁処分の対象となったような文書、資料の発見が鍵となる研究であるため、資料収集に難航しており、研究成果を発表するところまで至っていない。そのため当初予定していた国内・海外での成果の発表できず、交通費に残高が生じている。また資料、図書収集のための経費がほぼ未使用なのは、図書館で得られる資料がコピーや写真などの形で保管しているためである。 研究の遅延で、研究期間の延長を申請したため4年目に入る次年度は、国内外での資料収集の努力を続けつつ、もしも決定的な資料の発見に至らなくても、資料収集が難しいという実態、プロセス自体、市井の性文化研究の難しさを問題化するような研究報告、論文発表を行なっていきたい。また国内外で得られる古書、または国内で再販されたカストリ雑誌など資料収集に図書費を充てていく予定である。
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