研究課題
本研究は、原子力政策の基盤となる倫理原則を再構築するために、福島事故を一つのケーススタディとして討議倫理の観点から捉え、〈討議の当事者としてのステークホルダーの位置づけ〉と、〈原子力政策の策定において手続き的に妥当な討議のあり方〉の2点についての規範を明らかにすることを目的としている。これまでに、福島第一原子力発電所事故を対象事例として、そのemergency phase およびpost-accident phaseにおける各種の調査報告文書の内容分析を実施し、その結果、政府と電気事業者による計画と実施には、重大事故の完全な収束のために現時点で利用不可能な技術的方法が要請されるとするという、原子力発電所の運用に関する根本的な技術倫理上の課題を提起した。これに加えて、国政及び地方自治体の選挙、住民投票、施策に対するパブリックコメント、行政及びメディア等による世論調査等、一般市民による原子力発電事業への意思表示の機会の実態を経年的に分析した。その結果、国政選挙においては原子力発電の争点化が見られなくなり、地方自治体の選挙では、立地条件によって争点化の度合いがまったく異なっていること、住民投票、パブリックコメント、世論調査についても、事故からの歳月を経るにつれて直接的に原子力発電を焦点とするものが減少していることを明らかにした。福島事故を契機として原子力発電の倫理的基盤を討議倫理によって構築するという企図が、日本社会から希薄になっている状況が現出していることを現時点での課題として提起した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の成果が、Routledge社からRoutledge Studies in Environment and Healthとして『Ethics of Environmental Health』が刊行され、その中に論考として「Taking public opinion seriously in post-Fukushima Japan」が採録された。
最終年度である平成30年度の計画は、「原子力発電の基盤となるべき倫理原則と〈討議〉のあり方の提示」を目的として、これまでの研究成果に基づき、原子力政策の骨格となるべき規範を明確にするための研究を行う。とりわけ、〈協働による意思決定と透明性の確保〉という現行の義務論的原則の脆弱性を討議倫理の観点から指摘することを目論み、 (1)低レベル被ばくのリスク評価、(2)原子力発電所を抱える地域と電力を消費する地域との間における空間的なリスク・ベネフィットの不均衡、(3)放射性廃棄物の扱いをめぐる地域間・世代間でのリスク・ベネフィットの不均衡、(4)原子力発電のリスク・ベネフィットを被るあらゆる立場の人々(ステークホルダー)による意思決定のあり方の見直し、といった点についての政策決定過程での討議のあり方について、具体的な提言を行う。
国際学会の開催が2018年度に変更されたため、国外出張の経費を次年度に充てることとした。
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Eubios Journal of Asian and International Bioethics
巻: 27(6) ページ: 174-178
http://www.clg.niigata-u.ac.jp/~miyasaka