今年度は、昨年度に引き続き、精神医学の理論的基礎をめぐる問題、とくに精神医学において生物・心理・社会という3つのレベルがどのように関連しているのかという問題を中心に検討した。 具体的には、精神医学においてはこれら3つの要因をすべて考慮することが不可欠だと主張するバイオサイコソーシャルアプローチと、米国の精神医学者ナシア・ガミーによるこのアプローチに対する批判を検討した。その結果、バイオサイコソーシャルアプローチは、穏健な解釈をとるならば妥当な主張だが実質に乏しく、より強い解釈をとるならば実質てきだが問題の多い哲学的主張を前提とすることになること、ガミーが代案として提案する多元主義は、バイオサイコソーシャルアプローチの強い解釈よりは説得的だが、この見方の下では精神医学の統合性を説明する事が困難になることを明らかにした。 これらの内容については、2017年5月に東京大学で開催されたPPP研究会、9月に京都大学で開催されたフンダメンタ、6月に名古屋国際会議場で開催された精神神経学会で発表され、これらの発表内容にもとづく論文が、精神神経学雑誌に掲載が決定している。 さらに、精神医学の理論的基礎をめぐるその他の問題を検討する準備として、2018年3月に東京大学で2回の研究会を開催した。これらの研究会では、科学における還元の問題、生物学における種の位置づけ、精神医学における了解という方法論について、各分野の専門家による講演をてがかりに問題を検討した。
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