研究実績の概要 |
本課題遂行のための調査対象である「シュラウタ・チャダンガ」文献は、これまでもっぱら写本の形で伝承されてきたものであり、一度も公刊されていない。ところが、平成29年8月に行った現地調査では、ヴェーダ伝承村落の一つペルヴァナム地区のあるブラーマン家で、バウダーヤナ派のシュラウタ・チャダンガを自家製本の形で刊行することがわかった。そこで当の家を訪ね、本課題の主な研究対象としているアグニホートラ祭を扱った章の準備原稿を入手した。今回得られたものは、ケーララ州内にある多様なシュラウタ・チャダンガの一伝本にすぎないが、ある程度「読み」の確定したテキストを一つ持ちえたことは、今後様々な手書き写本を解読していく上で大いに役立つ。 さて、この「バウダーヤナ・シュラウタ・チャダンガ」アグニホートラ章を翻訳することが当面の目標となるが、そのためには、チャダンガ文献の言語的理解を深めるための基礎資料づくりが欠かせない。チャダンガのマラヤーラム語は、現代で一般的な語句・表現とはしばしば大きく異なっている。特に、祭具など特殊な事物の名称や、祭官が行う所作の表現などは、通常の辞書にないことが多い。そこで、先行研究で唯一、チャダンガ(ただしシュラウタではなくグリヒャのもの)のテキストを翻訳しているAsko Parpolaの論文“Codification of Vedic domestic ritual in Kerala”. Travaux de symposium international: le livre, la Roumanie, l’Europe (2011 Bucarest), pp.261-354を基にしたヴェーダ祭式用語小辞典、およびチャダンガで多用される表現を文法事項別にまとめた一覧表を作成した。これにて、平成30年度に予定する研究課題の遂行に向け、必要な資料がこれで概ね整備されたことになる。
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