研究課題/領域番号 |
16K13166
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中村 美亜 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (20436695)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 共創 / 芸術 / アート / 記憶 / エンパワメント / 価値 |
研究実績の概要 |
①札幌国際芸術祭における「さっぽろコレクティブオーケストラ」(SCO)のフィールドワークを実施し、場づくり、ファシリテーション、芸術的利益と社会福祉的利益の関係について考察した。SCOは、音楽経験や能力にかかわらず、小学生から18歳までの誰もが参加できる即興音楽オーケストラである。SCOには、学校で居場所を見つけにくい子どもや、発達障害を抱える子どもなども数多く参加していたが、目標はあくまでコンサートを成功させることで、「音を生き生きとさせる」ことだった。実際、ワークショップ、コンサートのプログラミング、ファシリテーションでは、「音を生き生きとさせる」ために何ができるかが徹底して追求されていたが、今回の調査からは、「音を生き生きとさせる」という芸術的な価値を高める行為が、「子ども達が生き生きと振る舞えるようになるようにする」という社会福祉的な価値を高める行為と密接に結びついていることがわかった。 ②共創、記憶、エンパワメント、価値などの概念を整理した上で、共創的芸術実践が効果をもたらす仕組みについてモデル化した。共創については、単に複数の人がいっしょに創造ことを意味するのではなく、非言語の身体的コミュニケーションがのびのびと行われる中で、自分が能動的に動いているのか受動的に動いているのかがわからなくなる状態において、自分のものとも他人のものとも判然としない新しい何かが生み出されていく状況と定義できる。このように捉えると、記憶の再編や社会的価値、エンパワメントとの関わりが理論的に説明できるようになる。共創的芸術実践では、一般の参加者が自分のやりたいようにすることができ、かつ他の人に対しても制約をかけず、誰もがやりたいようにできる状態が確保され、その結果、みなが協働して新しい表現を生み出すのに携わることができる状況をいかにデザインできるかが鍵となることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共創的芸術実践が効果をもたらす仕組みについての理論的整理を行い、概念的モデルとして提示することができた。
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今後の研究の推進方策 |
実践事例のフィールドワークを継続しつつ、概念モデルをさらに精緻化させるとともに、モデルを社会一般に伝えるためのデザイン・ツールを開発し、社会実装する。具体的には、誰に向けて、何を、どの段階で提供するのが一番効果的かをニーズ調査を実施し、検討する。また、やってしまいがちな誤解や思い込みの例をビジュアライズし、考えるヒントやキーワードの解説と連動させる工夫をする。暫定版については、11月に開催される日本文化政策学会のフォーラムで取り上げ、意見を求める。なお、5月にはエストニアで開催される国際文化政策学会でも発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
35,728円の繰り越しである。次年度の予算が当初予定したより減額になっていることもあり、繰り越すことにした。
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