研究課題/領域番号 |
16K13167
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
越智 雄磨 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助手 (80732552)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ソーシャリー・エンゲイジド・アート / ポスト・モダンダンス |
研究実績の概要 |
社会関与型芸術という観点からダンスの歴史を捉え直すために、1960年代のポスト・モダンダンス以降のダンスの歴史を見直す必要があったためまず、パブロ・エルゲラによる『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』(フィルムアート社、2015年)などを参照し、社会関与型芸術がいかなる実践であり、何が問題となっているかを明確にした。 次いで、社会関与型芸術に近いダンスの事例として考えられるポスト・モダンダンスを捉え直す上で、舞踊史家サリー・ベインズによる『デモクラシーの身体(Democracy’s body)』(1993, Duke University Press)や『スニーカーを履いたテレプシコレ(Terpsichore in sneaker: Post-modern dance)』(Wesleyan University press,1987)といった文献を読解する作業を行い、社会関与型芸術とダンスとの歴史的、理論的接点を見出すことができた。 また、「対話」「参加」「協働」「コミュニティ」といった社会的な含意を持つキーワードからダンスを捉え返し、社会関与型芸術の理論的と方法論を構築する上で、『参加の芸術:1950年から現在まで(The Art of Participation:1950 to now)』(Sanfrancisco Museum of Modern Art, 2008)などの文献を参照し、理論研究を行った。この研究により、当時から現代に至るまでに発表されたダンス作品が他領域の芸術や社会的実践と関連させる道筋を開くことができた。 本研究は、最終的に理論・歴史研究に基づいた、ワークショップや公演の実現をも見据えたものであるが、国内外で評価を高めているパフォーマンス集団contact Gonzoと研究内容を踏まえた公演の実現などについて議論する機会も設けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を進める上で課題としていた文献の読解をある程度進めることができた。また、本研究の成果を公開し、検証する意味も含めた公演の実施について、上演団体と話し合う機会を持つことができ、その実現の可能性を高めることができたと考えられる。1990年代後半から現代に至るまでフランスや日本の振付家たちがポスト・モダンダンスの振付家の創作方法に関心を寄せ、再解釈を行っているが、こうした歴史的変遷を、時代や社会背景の違いを考察しながら、社会関与型芸術として再文脈化すること挑む予備的研究を行うことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
社会関与型芸術としてのダンスは、いかなる対象に、いかなる方法によって、いかなる結果をもたらしうるのかを測るための研究方法や理論的視座を構築する。現在のところ、以下のような観点を考えている。 その作品は、いかなる社会的コミュニティに属する人々を対象としているのか(たとえば、障害者、子供、高齢者、路上生活者など)/その作品には、どのような方法でパフォーマーとなる人々は参加しているのか、また観客はいかにその作品に関与することになるのか。(劇場の舞台上にパフォーマーとして出演するのか、出演者と対話を行うことはできるのか、インターネット上のみで参加するのかなど)/その作品は、出演者や観客、参加者、あるいは対象とした社会的コミュニティに対して、どのような影響をもたらしたのか(融和的関係か、対立的関係か、「参加の拒否」をも含めて生産的な気づきをもたらす失敗があったか、あるいは観客にどの程度主体的に振舞ったり発言したりする権限が付与され、観客はその権限をどの程度実行に行使していたのかなど) 年度後半:上述したように年度前半に構築した分析の観点から、以下の振付家とその実践を対象としてケーススタディを実施する。対象としては、●3歳児から高齢者、白人、黄色人種など複数の人種の人々、車椅子でしか移動できない身体障害者までをパフォーマーとして募り、文化や出演者のアイデンティティの多様性を際立たせると同時に共生の可能性を示す『Gala』(2015)や知的障害をもつ人々をダンサーとする『Disabled Theater』(2012)などを創作してきたジェローム・ベル。 ●ウェブ上でダンスの素人を対象にして、振付の指示書を公開する『訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作』(2014)を創作した塚原悠也などを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、理論・歴史研究とその成果を検証、公表するための実践に分けられる。初年度においては、国内における文献研究が中心となったため、予定より予算を使用する必要がなかった。また次年度以降、芸術家と共同して行うワークショップ、および公演の目処が立ち、その準備、開催により多くの予算が必要と見込まれたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
年度後半に、パフォーマンス集団contact Gonzoに協力を依頼し、特にインターネットを媒介とした社会関与をテーマにした舞踊作品を創作する予定である。次年度使用額の一部はその制作費や会場借用費にあてられる予定である。
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