研究課題/領域番号 |
16K13168
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
泉 武夫 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (40168274)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 絵絹 / 仏画 / 絹目 |
研究実績の概要 |
今年度は、中世絵画の中でも重要な作品について、関連する各種遺品の熟覧と絹目画像の収集を行うことができた。 特筆すべき例として、奈良国立博物館(奈良博と略称)では、様式史的に13世紀後半といわれている南市町所蔵の春日曼荼羅図(類例中、最大の作品)を調査し、絹目の上からも当該時期にふさわしい組織であることが確かめられた。 また、九州国立博物館(九博と略称)にて、同館蔵の「仏涅槃図」(1323年銘)、および兵庫・妙法寺蔵「仏涅槃図」(1325年銘)の絹目を観察した。どちらも同じ絵仏師命尊の作とみなされている作品だが、大きさに相当の開きがあるほか、仕上がりにも若干の差が認められる。九博本は作風も豪華で大画面、妙法寺本は小振りで装飾性の少ない比較的簡素な作風になる。いっぽう、絹目の組織はあえて比較すると前者のほうが緻密ではあるが、ほとんど差がない。同じ工房の制作の場合は、制作時期が接近していれば(この場合は2年の開き)ほぼ同一であることが確認できた。貴重な成果である。 九博では、奈良博から寄託されている「両界曼荼羅図」(1397年)も調査・熟覧し、絹目画像を取得することができた。命尊筆の14世紀前半期の仏画2点と14世紀後半の奈良博本両界曼荼羅図の絹目は相当な違いがあり、後者はすでに画像取得済みの醍醐寺所蔵の普賢延命像(巨勢行忠筆、1375年)にきわめて近い。14世紀は絹目の変化が大きい時期であることが再確認される。 さらに、福島県立博物館寄託の慧日寺所蔵の「慧日寺絵図」は室町時代の寺院絵図の珍しい遺品で、この時期としては類例が少ない絹本である。この作品を実地調査し、絹目の画像も取得した。寺院絵図は、絵画史の主流からははずれるため、あまり調査がなされていない。絹目からは15世紀も早い時期のものと観察され、それが様式史的にも齟齬がないことを確かめることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に続いて、日本の古代・中世絵画とくに仏画作品中、制作年代が明確なものについて実見するプログラムは、ほぼ順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は最終年度を迎えることになるが、所蔵者・寄託者の意向でなかなか実現が難しい大画面の仏画について、理解を得ながら進めてゆく予定である。とくに当麻曼荼羅図の原寸大の模本の絹目調査は重要な研究材料であり、なんとか実現にこぎつけたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
学術書籍として注文していたものが、年度内に納品(中国からのとりよせ)されなかったために、若干の残額が生じた。次年度において、納品され次第支出する予定であり、全体の計画を変更するほどのことはなく、引き続き計画に即して遂行してゆきたい。
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