研究実績の概要 |
古代オリンピックの開催時に課された、休戦等の禁忌については、主に宗教史の分野において美術史とは切り離されて論じられてきた。一方、戦勝記念彫像とトロパイオン建立に関しては、美術史ないし考古学において研究が進められ、ゼウス図像に関しては、美術史のみにおいて論じられてきた。しかし、これら複数の学問領域において、別個に論じられてきた現象は実際にはゼウス信仰を共通の背景としており、族長神ゼウスの特殊な性格が、様々な領域において形を変えて顕在化していた可能性が高い。本課題においては、古代ギリシア聖域に関わる事例に着目し、宗教と美術の社会的影響力について考察を進めた。宗教と視覚芸術が、社会的役割を果たした事例について検討し、ゼウスを始めとする信仰と、宗教慣習としての古代ギリシア奉納記念物群における未解明の側面に光を当てた。 2018年度の実績として、①2018年9月13-16日にアテネ(ギリシャ共和国)に研究滞在し、国立考古博物館その他において奉納記念物の調査を行った。②2019年1月12-13日、3月21-22日に、大塚国際美術館において、古代ギリシア、ローマ奉納美術に関する調査を行った。③2019年3月2日に、早稲田大学戸山キャンパスにおいて、「古代ギリシアの図像に関する研究会」を開催した。長田年弘「パルテノン神殿西破風彫刻の解釈について」、および、Chia-Lin Hsu (東海大学Tunghai University, 台中; Assistant Professor)「ゲリュオネウス神話とギリシア人の世界観」の二つの研究発表を行った。④科研研究報告書『2017-2019年度 文部科学省科学研究費 挑戦的萌芽研究「聖地オリュンピア-戦闘行為の抑止への宗教および視覚芸術の関与」(16K13169)報告書』を作成し、4編の、日本語、英語、ドイツ語による論文を掲載した。
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